「頭領様! アクアスの商人から、食料の支援物資が届きました。」
「そうか。では、さっそく皆にそれを伝えよ。」
「ははっ!」
長きに渡るサンドランドの災厄は、“影”の消滅によって終息した。
国王が民を見捨て逃亡した後、たった一人で民衆を導き平和をもたらした戦士・四楓院夜一の名は、
英雄伝として後世にまで語り継がれていくことになる。
自警団のみならず、砂漠の民全員から「新たな王に」と望まれたが、
本人が「その器ではない」と辞退。しかし、民は彼女を慕い、称えた。
夜一が王位を望まないならば……。
と、彼らは砂漠の民の長という意味をこめて彼女を“頭領”と呼び敬意を表した。
彼女を除いてほかに砂漠の民をまとめれるものなどいない。
全員そう考えていたからこそ、彼らは夜一に従い、復興作業は王不在のまま急速に進められていく。
「じゃあ、俺達はもう行きます。」
「うむ、そうか。わかった。本当にありがとう。……いつか、また会おう。」
「はい。夜一さんも、お元気で!」
夜一に礼を言い、シュウ達三人はサンドランドの王都ヴァルダナをあとにした。
すると、急に左之助が二人を振りかえる。
「あー、、俺、、やることがあるしそろそろ御暇するんで★」
「わかった。……左之助、ありがとう。」
「チッ★ かゆくなるからやめてくれよ、、、じゃあ、、な。砂嵐は止んだから、お見送りは結構だ。」
そういうと左之助は、その俊足で砂漠の東へと消えていった。
“影”やちーちゃんとの戦いにおいても、彼はシュウをサポートし、助けてくれた。
その左之助がいなくなってしまい、少し二人は黙り込む。
「さ、俺達も行こうか。」
『うん。そだね。』
二人は左之助が走っていった方向とは反対へとゆっくり歩いていく……。
長き封印から解放された狗神は、頼りない主人に呆れながらも楽しい日々を過ごすことになっていく。
シュウの行動が、彼に笑顔を取り戻したのである。
一時はシュウと敵対し、最後は共に肩を並べて戦った盗賊・左之助は、
サンドランドを去る際にシュウ達と別れ、別の道を歩んでいった。
彼はどこへ行ったのだろうか。……左之助のことだ。
どこかでまた何かを盗んでいるのかもしれない。
ロドス島 小高い丘 ────
「……あれは、祭壇の兵士達……?」
少年の目線の先には、小さな王宮が建っていた。
随分古い建物だったが、サンドランドのものとは違いしっかりとしていた。
そして、王宮を包囲している兵士達。
“影”の言っていた通り、彼らは既にアスダフによって洗脳されている。
「閣下、今お助けいたします!」
決意を新たに、ポティーロは王宮へ向けて駆けて行った。
主を救い、アスダフを打ち倒すために。彼の戦いはまだ続いている。
旧サンドランド王国領 黄砂街道 ────
「二人とも、いい?これで見納めよ。」
『うりり……。』
『そんなに落ち込まんと、シャキっとして! 笑顔で見納めようやー。』
『うりうりーー』
伽耶はしばらくその様子を眺めていたが、ふうと息をつくと二人に声をかける。
「くーちゃん、ちーちゃん。……そろそろ行きましょうか。」
『うり。』
『そやね。』
三人は黄砂街道を抜けて、東のアクアスへと向かっていく。
最後になるかもしれない故郷の映像を、心に焼き付けて。
フレイム王国 ハンター協会 支部長執務室 ────
「どうやら、シュウ君はやってくれたようです。」
アポロンが部屋に入るなり、バーグ卿にそう伝えた。
バーグ卿はそれだけで砂漠で何があったかを理解する。
「そうか……。私や中将殿の賭けは、成功したようだな。」
「非常に危険な賭けでしたがね。」
「それは違いなかったがな。」
二人は苦笑するが、内心ほっとしていた。
本当によかった、と喜んでいたのだ。
「そういえば、腐巫女はどうした。」
「どうやらまた“極秘任務”に戻ったようです。……おそらく、上層部関係の。」
「そうか。」
腐巫女も、あの若きハンターに少し期待を寄せていた。
そしてシュウは期待を裏切らず、砂漠を救って見せた。
依頼が達成されたことよりも、そちらのほうがバーグ卿は嬉しかった。
だが、その直後彼はある命令を受け、複雑な思いを抱きながら砂漠の大地へと向かうことになる。
もっともその話が語られるのはいつになるのか……。
アクアス王国 王国軍基地 将軍執務室 ────
「ガノトトスはどこにいる!?」
イハージはエンヴィロンにそうたずねた。
水竜神団が発見したという伝説の式神。
アクアスの国民全員がその存在を崇め、信仰してきた。
「水竜様の居場所を聞いて、どうするというのだ?」
「保護するに決まっておるだろう。」
「嘘をつけ! 狗神の時と同じように、強制的に幽閉しようとしておるのだろう! そうはさせん! そうはさせんぞ、イハージ公。わしは絶対に話すつもりはない!」
水竜神団を王国から独立させようと尽力していたエンヴィロン大司教は、
王国将軍イハージの計略によってパルティア教皇と共に軍部に拘束されていた。
そして、国家反逆罪で裁判にかけられようとしているという。
しかし、水竜の居場所は頑なに話すことを拒否。
たとえ自分の身を危うくしても、ガノトトスを護ろうとしていた。
一方、イハージ公はともにアクアス御三家と称されたパルティア公を失脚させようと、
水竜の捜索と反乱の証拠を探しているが、両方とも発見には至っていない。
フレイム王国 大闘技場 ────
「あれ、チャンプ変わったのか?」
「あー。こないだまでの連勝してた人ね、行方不明らしいのよ。」
「え、何で!? 連勝記録を伸ばせば莫大な賞金が手に入るのに……。」
「そうすれば、一生遊んで暮らせるのにね。お金なんていらないのかしら?」
一時期、フレイムの闘技場で名を馳せていたティガーヤは、突然姿を消した。
その出来事に様々な噂が飛び交ったが、真相は定かではない。
旧サンドランド王国領 コーサラの街跡 ────
『で、これからどうするの?』
「うん。とりあえずフレイムへ帰ろうかなって。」
二人は戦火の跡が残る、コーサラの街跡へとやってきていた。
街では、復興作業に勤しむ砂漠の民が多く活動している。
『じゃ、今度は西側を通らなきゃねぇ。』
「なんで?」
シュウの問いに、狗神が振り返る。
そして笑いながらこういった。
『同じ道をもっかい通るなんて、面白くないじゃん?』
二人はこうして、エアリア王国を経由して帰国を目指す道をとることになった。
これが、さらなる冒険の始まりになることをシュウはまだ知らない。
第一部 完