第1部 新米ハンターの冒険録

清清しい風が吹き、心が洗われるような気分だ。
ここはアクアス領林間街道。
チャンプさんから聞いた場所へ向かっている途中だ。

第09話『悪魔に追われる笛の音』

アクアス王国領 林間街道 ────

「すっげー、気持ちのいい場所だなー!」
と、思わず背伸び。
まさか、こんな場所がすぐ近くにあるなんてな。
あの後俺は、ティガーヤさんから少しでも離れようと猛ダッシュして、 気がつけばいつの間にか目的のアクアスへ続く街道へと出ていた。

「……けど、狗神が亡霊ってのは本当なのか……?」

式神って精霊じゃないのか?
と、いうよりも精霊と亡霊って違うのか?

……うーん、わからん。
とりあえず直接会ってみるしかないよな。
アクアス王国の王宮神殿、『試練の場』。
そこに狗神はいるはずなんだ。
うー、とっとと契約して、砂嵐の先にあるウッハウハ生活をGETしたいぜ!


「そこの貴方!」
「へ?」

だ、誰だ?
よく周りを見渡してみると木陰に男の人がいる。
とは言ったものの俺よりも幼そうにも見える。
何やら持っているのは……笛?

「異世界の魔の者より奪いし宝玉はいかがですかー☆」
「宝玉?」
「あれ。ご存知ありませんでしたか。」

宝玉ってあのキラキラした装飾品の?

「ええとですね。簡単にご説明しますと、使用すると潜在能力が引き出される魔道具ですねー。」
「はい? 魔道具……。」

あんまり簡単じゃない語句が。
つまり、どういうことでしょう。ドーピング? みたいな?

「ううん……、そ、そうですね、……ええと。」
メチャクチャ説明に困ってるよ!

『見つけたぞ。』

……ん?
あの木陰に……、今、何か……。

「そうですね、魔道具といいますのは……。」
「危ない!」
「は?」


木陰から大鎌を持った魔物が出てきやがった!
ま、まさに悪魔って感じだな……。
だけど何とかしなくちゃ!

『今すぐに島に戻るのだ、ポティーロ。主は大変お怒りだ。これ以上他の大地に干渉すれば、また災いが起こるぞ。』

な、何コイツ!? 喋るの!?
っていうかポティーロ……? どっかで聞いたことがあるような。
……はっ!

「さあ! ポティーロ選手、初防衛なるのか! 挑戦者の激しい攻撃を華麗に回避……、」

あの人か!
ティガーヤさんにやられた……、 あの、20秒の人だったのか!

「むむっ……! もうここにいる事がばれましたか!」
「ば、ばれたって一体どういうことです? そもそもコイツは何なんです!?」

明らかに笛の人を睨みつけてる。
どうやら狙いは彼らしいが。

うわっ! 悪魔が襲いかかってきた!

「まあちょっと訳ありでして。家出……みたいなもんで、“主”に追われているんです。」

しゃ、喋りながら悪魔の攻撃をひょいひょい避けてる!
この人も……、ただものじゃないな。
大体“主”って……。

「この悪魔は“主”の使い。僕を連れ戻しに来たんですねー。」
「連れ戻しにって……明らかに貴方を殺す気じゃないですか!」
「主は容赦ないですからねー。ま、僕も戦闘は不得手なので、今まで逃げてきたんですけど……。」

また、悪魔の一撃を華麗に回避してる。
すごい。

「今回ばかりは、逃がしてはくれなさそうです……!」

そう言うと彼は笛を手に取った。
おいおい。
まさかそれで、あの悪魔をやっつけるとか言わないでよ?

『フン、おとくいのチャルメラか? しかしそれにはエンチャントは施されてはいないだろう。この私に能力なしに戦いを挑もうとは愚かだな。……おとなしく帰ればよいものを。』
「全てを見通しているつもりになるのは危険だよ。……命取りになるからね。」

うわっ、本気で笛の音色で悪魔と戦う気だ!
殺される!

『手足がなくなっても連れ戻せばよいとの命令だ! 恨んでくれるな!』
「魔力解放!」


耳と目がおかしくなったかと思った。
それほどの爆音と閃光だったんだ。

目を開いてみると、そこには大地に転がる悪魔の姿と、 笛をしまっている彼。

「ふう……、上手く発動してくれてよかったです。」
「あ、……コ、コイツは?」

彼は笛を完全にしまうと、悪魔のほうを向いて言った。
何のためらいもなく。

「死にました。」

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