その部屋の主は、窓の外を眺めていた。
「確かに正式な依頼を我々が受注することは不可能。だが、回収して別のハンターに任せることも考えられる。」
「……では回収にかかりますか?」
「いや。それを決めるのは我々ではない。」
「すぐに、準備を。」
アポロンはそう短く返事をすると、部屋を後にした。
部屋の主は一人窓の外を眺めながら、遠い砂漠の国の事を考える。
「まずは情報集めになるのか。」
正直申しまして私は狗神がどこにいるのか存じ上げませんし。
リサイクル屋のおっさんも何か、微妙そうなことしか言ってなかったし。
どこか情報が集まりそうなトコロはないものか。
……お?
なんかあっちの方がやたらと盛り上がってるような……?
フレイム王国 大闘技場前 ────
そういえば闘技場があるんだっけ。
あんまりこっちの方向に来た事がないからなぁ。
うわっ、凄い人だな。
皆チャンプ戦を見にきたのか?
「うおーっ! やれー!」
「さあ! ポティーロ選手、初防衛なるのか! 挑戦者の激しい攻撃を華麗に回避……、」
場内の実況とすさまじい歓声が聞こえてくる。
へー。
どうやら初防衛戦らしいな。今のチャンプ。
「できなかったー!!」
何。
「華麗にチャレンジャーの攻撃が直撃しました!
まさかの一撃必殺! チャレンジャーの何という破壊力! そしてチャンプ何という脆さ!
ポティーロ選手の初防衛戦は 開始僅か20秒 で決着しましたーっ!」
そ、そんなことも、あるのね。
チャンプが弱いのか。それともチャレンジャーが強いのか。
ちょっと面白そうだな。中に入ってみるか。
フレイム王国 闘技場内 ────
どうやら、今から新チャンプのヒーローインタビューらしい。
チャンプの姿が……見えた!
……え。
「初優勝の 謎の覆面選手ティガーヤさん にお話を伺いたいと思います。」
怪しい。
メチャクチャ怪しい。
だって、覆面に何か「拳」って書いてあるんだよ!
なんか怖いよ!
「ティガーヤさん、初優勝おめでとうございます。」
「(σ´ρ`)σィェァ!!」
「初チャンプ戦の感想をお願いします。」
「☆-(ノ´ρ`)八(´ρ` )ノイエーイ」
「元チャンプが挑んできたらどうしますか?」
「(´ρ`)ォゥィェ」
「次は初防衛戦ですね! 頑張ってください!」
「☆-(ノ´ρ`)人(´x` )ノゥヘーィ」
何というか、俺は悟った。
あれこそが……あれこそが真の強者だと!
あ、そうだ。情報収集に来たんだった!
とりあえず出口に先回りしてお客さんとかに聞いてみようかな?
えーと、出口出口ーっと。あった! ここだ!
ヒーローインタビューも終わったし、そろそろ帰るお客がいっぱい来るはずだ。
……と思ったんだけど、思った以上に客がこない。
なんでだ?
お。一人だけお客さんがでてきた。
女の人かな?
「あ、あの、すいません。」
「何かな?」
あれ、この人の腰のものってもしかして。
剣……か?
「ちょっと、狗神という式神についてお伺いしたいんですが。」
「狗神? あー、あの性質のわるい亡霊ね?」
な、なんですと?
今とんでもないショーゲキ発言が飛びだしたぞ。
「悪霊……なんですか?」
「ええ。飼い主に、あーんな目やこーんな目にあわされた犬が、死んでから……。それに、その前の魂の持ち主がもっと邪悪でね……?」
「ストップ! ストーップ! も、もう結構です!」
そんな話聞いたら契約に行く気が失せるって!
くそう、アポロンめ。
あえて黙っていたんだな……。
「あら、そう? 残念だわ。これからが面白いのに。」
そ、そんな爽やかな笑顔で言われても……
絶対聞きたくない。
「で、あの……狗神の居場所について、ご存知ないですか?」
「ああ、そういえば……。アクアスの王宮神殿の中にある『試練の場』という場所にいるわね。」
「そ、そうですか! ありがとうございます!」
これは有力な情報だぞ!
アクアス王国か! 隣の国でよかった。
「そうそう。情報集めするなら、全試合が終わってからのほうがいいよ。今はまだ試合間の休憩だし。」
「そうだったんですか。どうりで人がこないわけだ。」
「まあ次回からは、気をつけたほうがいい(*´ェ` )(´ェ`*)ネー」
「はい。…………え?」
(*´ェ` )(´ェ`*)ネー
今なんと。
「あ……。」
「し! 失礼します!」
身の危険が! かつてない殺気が!
急いでこの場から去らねば……ってあああ!?
さ、先回りされてる!?
何て速さだ!
「聞かなかったことにしてよね? ……お願いしますよ☆」
「ももももももももも、もちろん!」
とりあえず握り締めているその剣!
なんですかその禍々しさは!
大体さっきはあなた素手で……!
「と、とにかく失礼します!」
走れ。地平線の向こうまで。