第1部 新米ハンターの冒険録

その部屋の主は、窓の外を眺めていた。

「確かに正式な依頼を我々が受注することは不可能。だが、回収して別のハンターに任せることも考えられる。」
「……では回収にかかりますか?」
「いや。それを決めるのは我々ではない。」
「すぐに、準備を。」

アポロンはそう短く返事をすると、部屋を後にした。
部屋の主は一人窓の外を眺めながら、遠い砂漠の国の事を考える。


第08話『炎の国の覆面戦士』

「まずは情報集めになるのか。」

正直申しまして私は狗神がどこにいるのか存じ上げませんし。
リサイクル屋のおっさんも何か、微妙そうなことしか言ってなかったし。
どこか情報が集まりそうなトコロはないものか。

……お?
なんかあっちの方がやたらと盛り上がってるような……?


フレイム王国 大闘技場前 ────

そういえば闘技場があるんだっけ。
あんまりこっちの方向に来た事がないからなぁ。
うわっ、凄い人だな。
皆チャンプ戦を見にきたのか?

「うおーっ! やれー!」
「さあ! ポティーロ選手、初防衛なるのか! 挑戦者の激しい攻撃を華麗に回避……、」

場内の実況とすさまじい歓声が聞こえてくる。
へー。
どうやら初防衛戦らしいな。今のチャンプ。

「できなかったー!!」

何。

「華麗にチャレンジャーの攻撃が直撃しました!
まさかの一撃必殺! チャレンジャーの何という破壊力! そしてチャンプ何という脆さ!
ポティーロ選手の初防衛戦は 開始僅か20秒 で決着しましたーっ!」

そ、そんなことも、あるのね。
チャンプが弱いのか。それともチャレンジャーが強いのか。
ちょっと面白そうだな。中に入ってみるか。


フレイム王国 闘技場内 ────

どうやら、今から新チャンプのヒーローインタビューらしい。
チャンプの姿が……見えた!
……え。

「初優勝の 謎の覆面選手ティガーヤさん にお話を伺いたいと思います。」

怪しい。
メチャクチャ怪しい。

だって、覆面に何か「拳」って書いてあるんだよ!
なんか怖いよ!

「ティガーヤさん、初優勝おめでとうございます。」
「(σ´ρ`)σィェァ!!」
「初チャンプ戦の感想をお願いします。」
「☆-(ノ´ρ`)八(´ρ` )ノイエーイ」
「元チャンプが挑んできたらどうしますか?」
「(´ρ`)ォゥィェ」
「次は初防衛戦ですね! 頑張ってください!」
「☆-(ノ´ρ`)人(´x` )ノゥヘーィ」


何というか、俺は悟った。
あれこそが……あれこそが真の強者だと!

あ、そうだ。情報収集に来たんだった!
とりあえず出口に先回りしてお客さんとかに聞いてみようかな?

えーと、出口出口ーっと。あった! ここだ!
ヒーローインタビューも終わったし、そろそろ帰るお客がいっぱい来るはずだ。

……と思ったんだけど、思った以上に客がこない。
なんでだ?

お。一人だけお客さんがでてきた。
女の人かな?

「あ、あの、すいません。」
「何かな?」

あれ、この人の腰のものってもしかして。
剣……か?

「ちょっと、狗神という式神についてお伺いしたいんですが。」
「狗神? あー、あの性質のわるい亡霊ね?」

な、なんですと?
今とんでもないショーゲキ発言が飛びだしたぞ。

「悪霊……なんですか?」
「ええ。飼い主に、あーんな目やこーんな目にあわされた犬が、死んでから……。それに、その前の魂の持ち主がもっと邪悪でね……?
「ストップ! ストーップ! も、もう結構です!」

そんな話聞いたら契約に行く気が失せるって!
くそう、アポロンめ。
あえて黙っていたんだな……。

「あら、そう? 残念だわ。これからが面白いのに。

そ、そんな爽やかな笑顔で言われても……
絶対聞きたくない。

「で、あの……狗神の居場所について、ご存知ないですか?」
「ああ、そういえば……。アクアスの王宮神殿の中にある『試練の場』という場所にいるわね。」
「そ、そうですか! ありがとうございます!」

これは有力な情報だぞ!
アクアス王国か! 隣の国でよかった。

「そうそう。情報集めするなら、全試合が終わってからのほうがいいよ。今はまだ試合間の休憩だし。」
「そうだったんですか。どうりで人がこないわけだ。」
「まあ次回からは、気をつけたほうがいい(*´ェ` )(´ェ`*)ネー
「はい。…………え?」

(*´ェ` )(´ェ`*)ネー
今なんと。

「あ……。」
「し! 失礼します!」

身の危険が! かつてない殺気が!
急いでこの場から去らねば……ってあああ!?

さ、先回りされてる!?
何て速さだ!

「聞かなかったことにしてよね? ……お願いしますよ☆」
「ももももももももも、もちろん!」

とりあえず握り締めているその剣!
なんですかその禍々しさは!
大体さっきはあなた素手で……!

「と、とにかく失礼します!」

走れ。地平線の向こうまで。

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