第1部 新米ハンターの冒険録

「魔力解放!」
「!?」

遅い。
瞬神と謳われたこの儂をなめてかかると痛い目にあうぞ。

「グ……。」
「とは言っても。最早お前は動けまい?」

この魔獣のツメの【麻痺】
ツメが一度刺さればそれが最後。
神経や筋肉を麻痺させて動けなくなってしまうのじゃからな。

「御主も悪気があってこの国へ来たのではないであろう。じゃが……。」

儂はもう一度ツメを構えなおした。
今度は魔物の首元を狙って。

「儂は御主達を国へ入れるわけにはいかないのじゃ。」


第11話『砂漠の訪問者』

『儂の名は四楓院夜一。 サンドランド王国に仕えて、王家の裏の仕事を請け負っていた者。 どうか、砂漠に光を取り戻すために幻の霊鳥の卵を探して欲しい。』

そんな依頼文を書いて、儂は協会の使者に希望を託した。
オアシスの水を蘇らせることのできる唯一の方法を求めて。
じゃが、難しいのはわかっていた。
霊鳥の卵を入手するには、どれだけの労力と運が必要なのか知っておったからじゃ。

……今日も砂漠に多くの命が散った。
儂は仲間と共に、襲い掛かってくる魔物達から民を守り
再度の侵入を防ぐために結界を張っておる。
結界は長くて一日程度しかもたない上に、ほぼ毎日魔物の襲撃がある。

生命の水が絶え果てて、もう幾日が経ったのじゃろう。
国が蘇る日は来るのじゃろうか?

「夜一様!」
「ん?」
「協会から使者が参りました!」
「何だと!? すぐに行く!」

この日を……、この日をどれだけ待ちわびたか!


サンドランド王国 枯れ果てたオアシス ────

王都の中心部にあるオアシスに到着した儂を待っていたのは、 闇を思わせるような漆黒のマントを羽織る男だった。
腰には華美な装飾のない……それでありながら存在感を感じさせる剣。

「貴方が四楓院夜一さんですね?」
「うむ。いかにも。」
「私はハンター協会フレイム支部の、バーグと申します。」

フレイム王国とは、また遥か北の国じゃな。
待てよ? フレイムのバーグ……。もしや、支部長のライス・バーグ卿か! 
しかし、支部長クラスの人間が来るということは。

「実は我が支部で貴方の依頼を受けた少年がいるのです。」
「ほ、本当か!?」
「ええ。ただ……。」
「ただ、何じゃ?」

バーグは一度表情を曇らせた。
何やら、嫌な予感がする。

「偶然にも霊鳥の卵を得た少年は、新米ハンターなのです。
「し……新米、ハンター……。」
「今彼は、この砂漠の国へ向かうために、狗神との契約に挑もうとしています。 しかしながら、ご存知の通り式神との契約は、骨が折れるもの。 本人は初めての大きな仕事でやる気のようですが、途中で命を落とす事もあり得る。 それに、彼はまだ、ハンターという仕事をまだよくわかっていない。 途中で自信を喪失して、依頼もキャンセルという可能性があるということです。」

式神との契約。
それが難しいことは重々承知しておる。
儂も職業柄必要な式神と契約したことがあるからのぅ。

じゃが……よりによってそのような若者に霊鳥の卵が渡るとは……。

「な、なんとかならぬのか?」

「サンドランド王国が、我々ハンター協会との交流を拒否していた為、 私のような協会の人間が正式な依頼を受ける事はできません。 となれば、貴方の依頼を受ける事ができるのはハンターのみです。」
「……確かに、そうじゃな。我が国は条約の調印を、拒んだのじゃから……。」
「もし、貴方が願うのならば、こちらとしても手が一切ないわけではありません。」
「それは?」
「私達がその少年から卵を回収し、別のハンターにこの依頼を任せる、ということです。」

別のハンターに、任せる……?
確かにそれが一番いいかもしれない。
もっと旅慣れた、ベテランの実力あるハンターに任せればいい。
しかし、この危険な砂漠へやってくる勇気のあるハンターが現れるのに、 どれだけの時間がかかるだろうか?


「夜一様!」

「今度はどうした?」
「オ……、オアシスの南から……! また、魔物の群れが……!」
「何じゃと?」

そんな、そんなハズはない。
先ほど張った結界がもう破られたというのか!?

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