「魔力解放!」
「!?」
遅い。
瞬神と謳われたこの儂をなめてかかると痛い目にあうぞ。
「グ……。」
「とは言っても。最早お前は動けまい?」
この魔獣のツメの【麻痺】。
ツメが一度刺さればそれが最後。
神経や筋肉を麻痺させて動けなくなってしまうのじゃからな。
「御主も悪気があってこの国へ来たのではないであろう。じゃが……。」
儂はもう一度ツメを構えなおした。
今度は魔物の首元を狙って。
「儂は御主達を国へ入れるわけにはいかないのじゃ。」
『儂の名は四楓院夜一。
サンドランド王国に仕えて、王家の裏の仕事を請け負っていた者。
どうか、砂漠に光を取り戻すために幻の霊鳥の卵を探して欲しい。』
そんな依頼文を書いて、儂は協会の使者に希望を託した。
オアシスの水を蘇らせることのできる唯一の方法を求めて。
じゃが、難しいのはわかっていた。
霊鳥の卵を入手するには、どれだけの労力と運が必要なのか知っておったからじゃ。
……今日も砂漠に多くの命が散った。
儂は仲間と共に、襲い掛かってくる魔物達から民を守り
再度の侵入を防ぐために結界を張っておる。
結界は長くて一日程度しかもたない上に、ほぼ毎日魔物の襲撃がある。
生命の水が絶え果てて、もう幾日が経ったのじゃろう。
国が蘇る日は来るのじゃろうか?
「夜一様!」
「ん?」
「協会から使者が参りました!」
「何だと!? すぐに行く!」
この日を……、この日をどれだけ待ちわびたか!
サンドランド王国 枯れ果てたオアシス ────
王都の中心部にあるオアシスに到着した儂を待っていたのは、
闇を思わせるような漆黒のマントを羽織る男だった。
腰には華美な装飾のない……それでありながら存在感を感じさせる剣。
「貴方が四楓院夜一さんですね?」
「うむ。いかにも。」
「私はハンター協会フレイム支部の、バーグと申します。」
フレイム王国とは、また遥か北の国じゃな。
待てよ? フレイムのバーグ……。もしや、支部長のライス・バーグ卿か!
しかし、支部長クラスの人間が来るということは。
「実は我が支部で貴方の依頼を受けた少年がいるのです。」
「ほ、本当か!?」
「ええ。ただ……。」
「ただ、何じゃ?」
バーグは一度表情を曇らせた。
何やら、嫌な予感がする。
「偶然にも霊鳥の卵を得た少年は、新米ハンターなのです。」
「し……新米、ハンター……。」
「今彼は、この砂漠の国へ向かうために、狗神との契約に挑もうとしています。
しかしながら、ご存知の通り式神との契約は、骨が折れるもの。
本人は初めての大きな仕事でやる気のようですが、途中で命を落とす事もあり得る。
それに、彼はまだ、ハンターという仕事をまだよくわかっていない。
途中で自信を喪失して、依頼もキャンセルという可能性があるということです。」
式神との契約。
それが難しいことは重々承知しておる。
儂も職業柄必要な式神と契約したことがあるからのぅ。
じゃが……よりによってそのような若者に霊鳥の卵が渡るとは……。
「な、なんとかならぬのか?」
「サンドランド王国が、我々ハンター協会との交流を拒否していた為、
私のような協会の人間が正式な依頼を受ける事はできません。
となれば、貴方の依頼を受ける事ができるのはハンターのみです。」
「……確かに、そうじゃな。我が国は条約の調印を、拒んだのじゃから……。」
「もし、貴方が願うのならば、こちらとしても手が一切ないわけではありません。」
「それは?」
「私達がその少年から卵を回収し、別のハンターにこの依頼を任せる、ということです。」
別のハンターに、任せる……?
確かにそれが一番いいかもしれない。
もっと旅慣れた、ベテランの実力あるハンターに任せればいい。
しかし、この危険な砂漠へやってくる勇気のあるハンターが現れるのに、
どれだけの時間がかかるだろうか?
「夜一様!」
「今度はどうした?」
「オ……、オアシスの南から……! また、魔物の群れが……!」
「何じゃと?」
そんな、そんなハズはない。
先ほど張った結界がもう破られたというのか!?