「なるほど、では中将殿はシュウ君に任せると?」
「そうみたいだ。」
「本当によろしいのですか?」
私がそう尋ねると、バーグ卿は笑った。
「私が決める事ではないさ。こうなった以上、彼には何としても砂漠に辿り着いてもらわないとな。……君にはサポートを頼みたい。行ってくれるか?」
「無論です。お任せを。」
久しぶりに、私の“特技”を発揮するチャンスがきたのかもしれないな。
さあ、そうとなればすぐに追いかけなくては。
街道で出合った不思議な行商人、ポティーロさんとの出会い。
そして依頼主、四楓院夜一との出会いが俺のハンターとしての覚悟を与えてくれた。
俺はこの道を生きる。
まずは卵を、何としてもサンドランドに届けるんだ。
湖での奇妙な夜が明けて、俺は再び歩き出した。
やがて街道を抜け、最初の目的地に辿り着く。
「旅人さんですか?」
アクアス王国の国境の兵士が、俺の元へ近寄ってきた。
さすがに四大国の一つだけあって、兵士の装備も生半可なものではない。
だは、兵士の顔は偽りの無い笑顔だ。
「フレイム支部ハンター協会所属のハンターです。」
「おや、ハンターさんでしたか! フレイムからわざわざ……ようこそ、アクアス王国へ!」
なんか、つられて笑っちゃったよ。
良い笑顔だ。心から歓迎されているらしい。
ハンターは、その職務の性質上国と国を行き来することが多い。
その為に所属協会から四大国特殊出入国許可証(通称:ハンターパスポート)が発行される。
これは、ハンター協会と四大国の間で結ばれた条約によるものだ。
アクアス王国の王都で結ばれた“ヴェンツィア条約”に批准した国は、国境において、
許可証を所持するハンターの出入国を、いかなる場合においても認めねばならない。
協会にはサンドランドの一件のように、国の要人や国家そのものからの依頼も舞い込むために、
四大国の反対も大したことは無く、この特殊出入国許可証の完成へと繋がった。
新しい許可証発行に四大国側の手続きは不要だが、
発行を受けるハンターが所属している支部の、支部長の認可が唯一必要だ。
俺の場合はフレイム支部のバーグ卿という人の認可を受けている。
ま、あまりにも偉い人だから名前しか聞いたことないんだけさ。
きっと支部長なんだし強面のいかついおっさんなんだろうな。
俺は門番に許可証を見せた。
一字一句見逃さないように凄い勢いで目を動かした後、
パスポートの一番下にあるバーグ卿のサインを見て、彼は通行許可をだしてくれた。
「あ、そうだ。ハンターさん。」
「はい?」
彼は入国しようとした俺のトコロへわざわざ走ってきた。
そしてこう言った。
「くれぐれも盗賊団には御気をつけて。最近我が国で盗難事件が頻発しておりますので。」
アクアス王国 南部の町ヴェーニス ────
フレイムから林間街道を東へ抜けて、ようやく現れた水の王国。
その入り口であるヴェーニスの町でも水の国の名前通り、いたるところで美しい水が流れている。
ここでは、水も国の一部なのだ。
やはり少し気温が低いのかもしれない。
フレイムを出たことがなかった俺だが、アクアスの空気はひんやりする。
寒いとまでは行かないけど。
むしろ、心地良いくらいだ。
住民の服装も俺の母国とは少し異なっている。
風通しのよさそうな涼しげな服ばかりだ。
しかし、こんなに治安のよさそうな国で盗賊団が暗躍しているとは……
ちょっと信じられないな。
「ちょっと、そこの君ぃー☆」
なんだかニヤニヤしてこちらを見ている男が一人。
もしかして、俺の事を呼んでいる、のか?
「何か?」
「いやー、君さ、君さ。ハンターでしょ?」
「まあな。」
できるだけ関わらない方が良さそうなオーラがする。
だが。
「やっぱりー!? こんなトコロでハンターさんに会えるとは、俺ってラッキー☆」
相手は勝手に盛り上がっている。
どうしたもんかねぇ。
「俺がハンターだったら何だってんだ?」
すると、男は懐から篭手を取り出して右手にはめた。
「いやーさー。ハンターだったら」
そして、篭手が光りだす。
ヤバい。
そう思ったときには遅かった。
「奥義解放! ……奥義、【ピック】!」
篭手をはめた男の右手が、俺の目の前に現れた。
はずしたか?
そう思ったのは甘かった。
脚は力を失い、俺はその場に崩れ落ちた。
何も足だけじゃない。
体全身の力が抜き取られたような感じだった。
そして倒れた俺の体から、二つの球体が男の篭手に吸い込まれていく。
一つは、ポティーロさんから貰った魔宝玉。
もう一つは……。
霊鳥の卵。
「お宝、持ってるだろーなって思ってさ☆」