第1部 新米ハンターの冒険録

絶望の国、サンドランド。
王政が崩壊し未来は絶たれたと思われていた国。
そこへ三人の冒険者がやってくる。

一人は、砂漠を救おうとする者。
一人は、ある新米ハンターへの興味から砂漠にやってきた者。
一人は、邪気を感じ取ってその原因を突き止めようとする者。

彼らの行動が、絶望の国をどのように動かしていくのだろうか。
歴史が動き出そうとしている。


第31話『夜一の決意』

サンドランド王国 クシャーナの町跡 ────

今まで俺が見た事がないくらい酷い荒れようだった。
砂嵐が吹き荒れる黄砂街道を抜け、国境の町クシャーナへとたどり着いたのだが……。
建物は崩壊しており、砂が町を侵食していた。

「うっわー、これは凄惨な光景だねぇ……。」
「ああ。ここまで酷い状況だとは思ってなかった。」

これは、かなり危険な状態なのかもしれない。
夜一さんは無事なのだろうか?
砂漠の民はどこにいるのだろう?

「まあ、、、とりあえず噂のオアシスまで行ってみない??」

え?
振り返ると。
なぜかそこに見覚えのある盗賊が立っていて。

「左之助!?」
「やっほー★ 久しぶりジャン、、って言っても言うほど経ってないか??」
「誰、この人。」
「って、オイ★」

あ、そうか。
狗神は左之助のことは知らないんだ。

「えーと……ま、簡単に言えばコソ泥かな。」
「なるほど。」
「イヤ、、納得されると困るんだけど、、、コソコソしたつもりもないし、、、、」

まあ確かに堂々と盗まれたけどさ。卵は。
しかし腐巫女さんに連行されたハズなのに、何でこんなところにコイツがいるんだ?
それにあの砂嵐が吹き荒れる黄砂街道を、どうやって通ったんだろう。

「あーー、、、言いたいことはわかるさ。ここへはお前たちのオーラに勝手にお邪魔して来たのサ★」
「ほう。それはまた凄い事を。……えええええええ!?

狗神の目を掻い潜ってオーラに忍び込むなんて……!!
さすが天下の大泥棒。
気配を消すのはお得意なのか。

「……いや、気づいてたけど。」
「おいっ、何で言わなかったんだよ!」
「だってー。この人が黙ってろって言うからさー。」

そんなんで黙るか、普通!?
もう過ぎた事ではあるけどさ。

「で、何でついてきたんだよ。」
「えー。だって面白そうジャン★」
「何が?」
「お前が。」

……コイツ、人を奇人扱いしてるな。
見世物じゃないよ? 俺。

「だってさー、、あれからそんなに時間経ってないのにそんな式神連れちゃってさ。」
「えへへ。」
「別にお前をほめてるわけじゃないと思うけど。」
「あ、そうなの?」

ともかく、今左之助に戦意はないらしい。
それなら別にいいかな……?
コイツの真意がよくわかんないけど。

「要するにだね、、、楽しそうだからついて行く。それだけ★」
「あー、はいはい。そうですかーっと。」
「ウッガー★」

にぎやかになるのは悪くない、かな。
左之助が完全に味方とは言い切れないけど。

「よし、枯れたオアシスに行ってみよう。」
「それが一番早いかもねー。僕は何でもいいけど。」
「ウンウン、、、やっぱり俺サマの言うとおりにするのが一番★ 出発進行!!」

「「お前が仕切るなっ!!」」

狗神と被った。


サンドランド王国 王都ヴァルダナ ────

戦況はますます悪くなるばかりじゃった。
じゃが、シュウが卵を持ってきてくれると約束してくれた。
儂は何としても、それまで持ちこたえなければならない。
この国を救うためにも。

しかし、届くのは嫌な報告ばかりじゃった。

「クシャーナは魔物により完全に崩壊! 町民と自警団を撤退させました。」
「夜一様! グプタ地方の防衛線が完全に破れました!」
「コーサラもやられました! これ以上はとても防げません……首都へ撤退します。」

雲外鏡によってシュウと交信した後から、魔物の勢いがさらに強まった。
儂らが護りの軸にしていた結界はもはや無意味となり、敵の侵入を許すようになってしまった。
それからは、魔物を撃退する為に自警団が直接戦闘をすることも多くなった。
多くの砂漠の民の血が流れた。

国境の町、クシャーナは一番に陥落してしまった。
続いてグプタ地方に展開しておった防衛線が崩れ、サンドランド第二の都市コーサラが落ちた。
とうとう、砂漠の民は首都ヴァルダナにまで追い詰められてしまった。
魔物達は群れをなしてコーサラに陣取り、日に何度も首都へ攻撃をしかけてくる。
まるで何者かの指揮を受けているかのような統制ぶりじゃ。
嫌な予感がする。

「夜一様! コーサラの街で魔物たちが不穏な動きを……ヴァルダナへ攻め込んでくるかもしれません。」
「わかった。すぐに向かおう。民を城へ避難させるのじゃ!」
「はっ!」

儂がこの国を護らねば。
誰が裏で糸をひいていようと、戦いを止めるわけにはいかぬ!


サンドランド王国 コーサラの街跡 ────

第二の都市であったコーサラは、一昨日完全に敵側の手に落ちた。
建物は崩れ落ち、今は魔物たちの住処となっておる。

「最早、見る影もない……おのれ、魔物どもめ!!」
『夜一、落ち着いて。貴方が取り乱しては他の者まで不安にさせてしまうわ。』

「う、うむ。そうじゃな……すまぬ。」

魔物の大群を前にしても彼女は涼しい顔をしておった。
シュウとの交信で呼び出した後、 『契約者なんだから、もっと私を呼び出しなさい!』
と怒られてしまった。
じゃから嫌々、儂は戦場に彼女を連れてきたが……どうやら助けられたな。

「いくぞ、皆の者!」
「はっ!」

魔獣のツメを構えて、儂は魔物の群れに突っ込んでいった。
瞬神と謳われたこの足の速さをいかして、儂は次々と魔物を【麻痺】させていった。
雲外鏡は、神力と呼ばれる式神のみが使う事のできる術を駆使して戦ってくれておる。
神力という術は、魔力の塊を作りそれを放つという術で、並大抵の魔物は生きてはおれぬ。

戦闘が不得手とはいえ雲外鏡も式神じゃ。
その戦闘力は、そこらの魔物とは桁外れなのじゃろう。

「魔力解放!」
「グ……。」
「どうじゃ。手足が言う事をきかぬ気分は?」
儂が動けなくした魔物を自警団の者が倒し、

「式神の力を見せてあげましょう。……【神力】!

雲外鏡が神力で前方の敵をなぎ払う。
こうして少しずつじゃが確実に敵の数は減っていっておった。

「よし、もう少しじゃ! 頑張れ!」
『……!!』
「どうした? 雲外鏡。」
『夜一! 北西から新手よ!』
「何!?」

雲外鏡の言うとおり、北西の方角から魔物の群れが現れた。
しかも数が多い。
恐らく、今まで戦ってきた魔物の群れよりも多いじゃろう。

「ま、まずいのぉ……これ以上数が増えられたら、こちらがやられてしまう。」

この状況を打破できるとすれば、たった1つのあの手段しかない。
……シュウ、すまぬ。
これ以上、御主を待つことはできないかもしれぬ。
その時は。

砂漠を頼むぞ……!!

「皆の者、ヴァルダナへ撤退せよ! これより儂一人で特攻する!!」

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