第1部 新米ハンターの冒険録

狗神。
飼い主から愛されず、式神となった後も独りで狭い空間に閉じ込められていた。
自分と契約をしにきたハンターを殺す。
そんな数百年。
俺は、アイツを解放してやるんだ……!

第27話『少年の最期』

『グルルルルルル……。』
「くそっ!!」

逃げるので、精一杯。
体力が持たないぞ……俺も、攻撃を仕掛けないと!
俺はホルダーから小さい銃を取り出した。
リサイクルショップの店主から譲り受けた、あの銃だ。

とにかく、引き金を引くしかなかった。

「そこかっ!」

パン、と破裂音が空間に響く。
だが弾は狗神に当たることはなかった。
銃弾が直撃する瞬間に、狗神の体を不思議な球体が包んだのだ。

『ムダダヨ、オニイサン。』
「チッ。これが守りの力、ってわけか。……厄介だな。」

何より俺は戦闘経験が浅い。
多分、狗神に挑んでいって、そして散っていったハンターの中で一番な。
まずエンチャントの引き出し方が分かってない。

……なんで、俺こんな状態で挑んでるんだよ。

『ニゲテバカリジャ、オモシロクナイデショ?』
「ああ、そうだな。」
『デモ、ボクニハ コウゲキハ ツウヨウシナイヨ?』
「……ああ、そうだな。」

狗神に勝つためには、エンチャントを引き出して奴の守りを出し抜く必要がある……。
まずは狗神の弱点を探すか!

俺はトリガーを引く。
さすが魔力がエンチャントされた武器だ。これには実弾の代わりに魔力を弾として撃ち出すらしい。
ってことは弾切れはないって考えでいいのか?
俺は確認するようにもう一度トリガーを引く。
そしてもう一度……。

『ダカラ ムダ ダッテバ。』

狗神が守りのオーラを展開する。
魔弾は虚しく消滅していった。

「どうすりゃいいんだよ、まったく!」

避けながら対策を練るのって難しいって!
エンチャントの引き出し方もイマイチ分からないしなぁ……くそっ!

「秘められた能力はそれなりに実力のあるハンターならば自由に操れる。しかしおめぇのような新米では、いつ能力が発揮されるかは、まさしく運しだい……かな。」

今思えば何て曖昧な説明なんだ。
もっとちゃんと聞いとけばよかった。

……うおっ!?

今、狗神のツメが掠り掛けた。
危ねぇ!!
もう少しで鼻がもぎ取られるところだった。

『ヨユウ ダネ。カンガエゴト スルナンテサ。ココロノナカ デ カンガエナイデ ボクニモ オシエテヨ。』
「お前に話したら意味無いだろーっ!?」

……待てよ。
話す?

今、何かが引っかかった。
脳裏に映画のワンシーンみたいに、様々な光景がよみがえる。

『手足がなくなっても連れ戻せばよいとの命令だ!恨んでくれるな!』
「魔力解放!」

追手の悪魔に、ポティーロさんが【即死】を発動させた時……。

「奥義解放! ……奥義、【ピック】!」

左之助が篭手を使った時……そうだ!
解放言霊だ!
エンチャントを引き出す鍵はこれなんだ!

よし、それじゃあさっそく……。

『ジットシテタラ オワッチャウヨ?』
「!!」

くそっ! ……時間をくれるわけないか!
狗神はいつの間にか目の前にまで迫ってきていた。
だが、一か八か……俺は夢中で叫んだ。

「魔力解放!」
『!?』

狗神のツメは空振りした。
引き裂かれたはずの俺の体は、どこにも怪我をしてない。
どうやら、上手くエンチャントが発動してくれたようだ。

店主が俺の為に選んでくれたこの薄い鎧。
解放言霊に反応して光を放った鎧は、その秘められた力を発動させた。

『ソレハ 【回避】ノチカラ ダネ。ナカナカ オモシロイジャン。』
「【回避】……か。」

今の俺にはちょうどいい力だ。
奴の守りの弱点を見つけるまで、いい時間稼ぎになる。
エンチャントの発動方法はわかった。
後はこの銃の力で奴を倒すだけ。

『デモ コウゲキ ガ ツウヨウシナケレバ イミガナイネ。』

そんなことはない。
諦めなければ必ずチャンスは来る。
俺がトリガーを引き、狗神が守りのオーラを展開させる。
そんな流れが何度となく続いた。

その時だった。
魔弾が狗神に掠り掛けた。
当たる寸前に、守りのオーラが展開され弾丸は消え去った。

『ムダダッテ イッテルジャナイ。』
「……違う。」

無駄じゃない。
今までとは違ったんだ。

奴に、弾が当たりかけた。
あと少しってところでオーラに弾かれたけど、さっきのは今までと違った。
何故だ?
何故、今のだけが……。


何かに気づいた。
もしかしたら……。
奴の弱点となる鍵かもしれない。

もう一度だ。
もう一度、奴に防御をさせる。

俺は引き金を引いた。
狗神は守りのオーラを展開させた。
俺の考えが確かならば……。

15……、

『ナニガシタイノ?モウ ヤメニシナイ?』
「ああ、そうだな。もうすぐ終わりにできる。」

20……、

『グルルルルルル…………。』
「魔力解放!」

危ない。
【回避】がなければ、もう四度は死んでる。
あと、少しなんだ。
頑張れ、俺!

25……、

『ナニヲシタイノ? モウ アキラメナヨ。エイエンニ ヤスミナヨ。』
「ばーか。諦められるかよ。……勝利を目前にして。」

俺の考えが確かならば……!

30……、

今だっ!

『!?』

魔弾が、狗神に直撃した。
間違いない。
とうとう、見つけた!

「見抜いた! お前の弱点!」
『グ……、ナニヲ……バカナ……。』

奴の弱点はこうだ。
攻撃を防ぐために守りのオーラを展開させるわけだが、オーラは約30秒ほど保たれる。
オーラは少しづつ弱まっていき、やがて消え去る。
一度オーラが消えた直後は、奴はオーラの力を展開させることができない。
その一瞬。
オーラが消えた一瞬にだけチャンスがある。
そこに、勝機がある!

「俺の勝ちだ、狗神!」
『オシカッタネ、オニイサン。』
「何?」


俺が引き金を引いた、その瞬間。
狗神は俺の目の前にいた。
本当に、文字通り目の前に。
守りのオーラを纏い、魔弾を防いで突進してきたんだ。

『ユダンシナケレバ カテタノニネ。』
「ま……。」

魔力解放。
その言葉を続けることはできなかった。
狗神のツメが、俺の体を貫いたから。

あと、30秒。
たったの30秒で勝てたのに。

出血が酷くなるのがわかった。

意識も、やがて途切れた。

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