闇の蠢きを感じる者がいた。
その名は。
今のは間違いない。アイツだ。
そんなはずはない、と自分に言い聞かせながら俺は祭壇へと向かう。
父の意思を継いで永遠に監視し続けなければならない。
この命に代えてもあの封印だけは絶対に守らなくてはならないんだ。
奴をもう一度、この世界に出させてはいけない……!
「ロータス様! いかがなさいましたか?」
「ん? あ、ああ。」
気がつけば、既に封印の祭壇に辿り着いていた。
監視に当たっている兵士が心配そうに俺を見ている。
「何だか嫌な胸騒ぎがしてな。封印が弱まっているんじゃないかと思って心配になった。」
「そうですか。ですが、御心配にはおよびませんよ。昨日も強化を施したばかりですので。」
「……わかった。この後も封印には注意しておいてくれ。」
「はっ!」
絶対に気のせいなはずがない。
あの気配……あの時感じたアイツの気配に他ならない。
父の意思を継いでいる俺だけにしか感じ取れないのだろうか。
だが結界強化を昨日行ったのであれば、邪気が漏れる事などまずあり得ない。
アイツは結界の聖気に、雁字搦めに封じられているはずだ。
「……気のせい、なのか。」
そう呟いて俺は封印の祭壇を後にした。
このとき、俺はまだ知らなかった。
外界との干渉を拒絶したが為にアイツの絶望の種が撒かれている事を。
そして、俺の後姿を見送る祭壇の兵士達の顔が、邪悪なものに変わっている事に。