第1部 新米ハンターの冒険録

僕のいる場所はサンドランド王国の首都ヴァルダナで合っているのだろうか?
その割には人の気配がしない。
これもあいつの仕業なのか?
……ん?
何だろう、あれは。
武装した人達が首都へと入ってきた。
一体、何がどうなってるんだ?


第32話『たった一つの手段』

「皆、撤退したころじゃな。」
『ええ。戦士達はヴァルダナに。』
「よし。」

儂は懐から小さな巾着袋を取り出した。
この戦いに勝てるかもしれない、その最後の手段。
それがこの巾着。

『本当にそれを使うの?』

巾着を取り出した儂に、雲外鏡はそう尋ねた。
彼女が心配そうに尋ねてくるのも無理はない。
これにはリスクが大きすぎる。
じゃが、儂には「やる」という選択肢しかない。

「うむ。儂はこの 5 分間に賭ける。」
『……そう。わかったわ。なら、私もできる限り協力しましょう。」
「すまぬな、雲外鏡。」

彼女は頭を下げた儂を笑い飛ばした。

『契約を結んだ以上、私達は一心同体よ。行きましょう! 夜一!』
「そうじゃな。」

儂と雲外鏡は魔物の大群が迫ってきておる北西の方角を向いた。
5 分間で、何とかなるのじゃろうか?
……いや、何とかするしかない。
二人は魔物に向かってほぼ同時に走り出した。

「魔力解放!」


サンドランド王国 グプタ地方のオアシス ────

うう……暑い。
ようやくオアシスにたどり着いたぞ。
クシャーナから歩く事 3 時間くらい、だろうか。
もうへとへと。

「ぷはーっ★」
「くそっ! ずるいぞ左之助っ、俺が先に水を飲もうとしてたのに!!」
「知らん!!」

ムカツク奴だ。
オアシスとは言っても例の枯渇したオアシスじゃない。
クシャーナから王都ヴァルダナへの直線経路の途中にある、普通のオアシスだ。
俺達がいる場所はグプタ地方と呼ばれる場所らしい。
左之助によると、オアシスがサンドランド国内でもっとも多い地域だそうだ。
確かに、ここにくるまでにも二箇所オアシスを経由した。

『その枯渇した大きいオアシスっていうのは王都の中なんでしょ?』
「ああ、、、そう聞いたケド。」
『ふーん。でもこんな小さいオアシスが枯れてないのにさ、何でそれだけ枯れたんだろうね。』
「それはそうだな。そんな大きいオアシスだけが枯渇するなんて奇妙な話だ。」

それに、そこが枯渇した後に次々と降りかかった災厄の数々。
何とも謎が多い。

「その謎を解明する為にも、、現地へ急ぎますか★」
『まー、それがいいねー。』

「ちょっと待って! まだ俺水飲んでないんだけどっ!!」

「『出発ー!』」

だからちょっと待てつってんだろがっっ!!
こういう時だけコンビを組みやがってーっ!!


サンドランド王国 コーサラの街跡 ────

これで 3 分。
残り 2 分で決められるじゃろうか?
儂は魔獣の爪で視界に入った敵を切り裂いていった。
敵の攻撃を防ぐ必要がないだけに、動きは軽い。

『夜一! あと、2 分よ。』
「わかっておる!」

一匹のモンスターが、儂の頭にその鋭い爪を突き刺した。
しかし、儂は何事もなかったようにそのモンスターを切り裂いた。
何が起こったのかわからない。
そんな顔をして魔物は大地に倒れた。
まあ、無理もないがのぉ。

儂が先ほど発動させた巾着のエンチャント。
【ハミューの巾着】。
それがこのエンチャントの名前じゃ。
この力が発動した最初の 5 分間は、使用者へのあらゆるダメージは巾着袋に吸収される。
つまり儂は無敵状態、というわけじゃ。

『だいぶ敵の数も減ったわね……あと、少し……!』
「ああ、そうじゃな!」

残り、1 分。
……この【ハミューの巾着】の次の効果が儂に降りかかるまで。
あと13体倒せば、儂の勝ちじゃ。
あと、13体倒せば。

「魔力解放!」

雲外鏡が魔力の巨大な塊を魔物の群れに放つ。
圧縮された魔力が次々とモンスターをなぎ倒していく。
そして儂もそれに続くように群れの中心に飛び込み、無我夢中で魔物を切り裂く。
残り 7 体。
よし、行ける。
まだ儂には勝機がある!

「あと 7 体。行けるぞ、雲外鏡!」
『…………!?』
「どうした?」
『よ、夜一……あ、新手よ!』
「な、何!?」

まさか!
これ以上どこから魔物が現れるというのじゃ!?
じゃが、新手の魔物共は今度は南の方角から現れておった。
まるで、このコーサラに砂漠中の魔物が集まってきておるようじゃ。

『数は少ないわ。何とかなるかもしれない! 急ぎましょう。』

雲外鏡の声が聞こえた瞬間じゃった。
巾着袋が赤い光を発し、そしてはじけ飛んだ。
袋が発していた赤い光は儂の体に纏わりつき、そして消えた。

「し、しまった!? こ、これは……。」
『【ハミューの巾着】のリスク……!! 夜一、早く逃げて!』

彼女は神力を放ちながら、そう叫んだ。
儂は素直にその言葉に従ってヴァルダナとは正反対の方角へと走った。
【ハミューの巾着】は 5 分の間、使用者を無敵にするという強大な力を持つ。
それ故に相当のリスクもある。
5 分後、巾着は破裂しある呪いが使用者に降りかかるのじゃ。

難しく言えば使用者の防御力を著しく低下させる呪い。
恐らく、本来かすり傷ですむ傷だとしても……。
今の儂ならば骨が砕け散るようなダメージを受ける事じゃろう。

じゃから儂は逃げるしかなかった。

『夜一、後ろよ!』

彼女の声に反応して儂は後ろを振り向いた。
そこには、剣を持った小さな魔物がいた。
いつもならばとるに足らぬ敵。
しかし、今の儂にはこれほど強大な敵はいなかった。

剣が、儂に向かって振り下ろされる瞬間、

魔物のさらに後ろで、一人の少年が解放言霊を唱えているのが見えた。

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