いやいや、まさかこんな地味……、失礼、目立たないおっさんが協会の人間とはなぁ。
人は地味か派手か……、失礼、見た目では判断できないんだな。
「確か狗神と契約するんだったな。」
「ああ、なんだかよくわかんないけど。そういうこと。」
「狗神ねぇ……?」
なんなんだ。
その嫌味なニヤリ顔は!
「おめぇ、狗神のこと……どこまで知ってる?」
「え……あ、ああ。えーと。」
そういえば全然知らない。
「守りを司ってる式神……ってことくらいかな。」
受付の彼……いや、アポロンさんだっけ?
あの人から聞いたことだけどね。
「ああ、そうだ。」
……。
…………。
え、終わり!?
「そ、それだけ?」
「ああ。俺もそれ以上は知らねぇから。」
親父ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。
「さて……式神とやりあうってのにその貧弱な装備ではなぁ。」
「仕方ないだろ。俺、まだ新米ハンターだよ?」
「やれやれ……新米が式神と契約なんて、命知らずだな。やめときゃいいのに。」
あ、おっさんは卵のこと知らないのか。
アポロンさん、一応秘密にしてくれてたんだ。
ちょっと見直した……かも。
「ま、あいつからの頼みだから仕方ないわな。それに……。」
「それに?」
「『貧弱な若造をなんとか並程度にしてやってくださいね』と言われたら、やるしかないだろ。」
さっきの言葉、撤回。
「んじゃあなあ、とりあえずお前さんでも扱えそうな装備をチョイスするかな。」
おっさんは地味なショーケースから、
小さい銃のようなものと軽そうな鎧をだしてきた。
「とりあえずこれくらいだろ。」
そう言って渡してくる。
……って、見た目どおり軽いなこの鎧。
おっさん、いくら俺が新米で何も知らないからと言って、てきとーにやってないか?
「これくらいなら確かに俺でも扱えそうだけどさ。」
「なんだ、不満そうだな。あんまり重い鎧はまだ扱えないだろうよ。」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……。」
ちょっと着てみたかったな。
かっこいい鎧とか。
「その銃も鎧も、一般人も持ってるようなもんとは違うんだからな。」
「どう違うってんだ?」
「……よほど、勉強不足なんだな。おめぇ。」
だから新米なんだって!
勉強が嫌いな新米なんだってば!
「いいか? ハンターが使う装備には魔力が付加されてるものがほとんどだ。」
「魔力ね。」
「ああ。古代のルーンマスター達が様々な能力を付加(エンチャント)させた特別な装備品だ。」
「へ、へえ……そうなんだ。」
「エンチャントメント、つまりルーンマスターによる魔力封入の技術は、強大な魔力を必要とするから、今ではその技術を伝えるものは極わずかだ。簡単に言えば、新品装備なんてほとんどないってことだがな。」
「だからリサイクルショップなわけか?」
「ま、そういうこった。かつて魔器の多くを協会が所持していた時代があってな、その頃登録したハンター達に魔器を配布していったんだそうだ。」
「それで今は世界中に散らばってるってわけね。しかし、太っ腹なことすんなぁ。」
そんな事情があったとは。
ハンターは、古代のルーンマスター達が生み出した装備品を、リサイクルして使っているわけか。
「だからその銃と鎧も一般のモノより格段上だ。無論、おめぇが今装備してるもんよりもな。」
「そこは余計だってのー。」
「秘められた能力はそれなりに実力のあるハンターならば自由に操れる。しかしおめぇのような新米では、いつ能力が発揮されるかは、まさしく運しだい……かな。」
なんだ、意外と不便だな。
いつでも炎をだせたり、召喚術が使えたりーとか想像してたのに!
はやく腕を上げろってのか?
「中には“七つもの能力を秘めた伝説の羽衣”があるとも聞いたことがあるがなぁ。噂にすぎんだろ。」
「そんなのが扱えたら凄いだろうな、きっと。」
「よし!とりあえずおめぇの装備はコレで決定だ。代金だが……。」
しまった!
金なんか無いぞ!?
さっき自販機の下に落ちてた100Gくらいなら……。
「いらねぇからな。」
「……は?」
「なんだかしらんが、協会の支援ってことらしいじゃねぇか。タダで持っていけ。」
「え、あ……そう。あ、ありがと。」
そういうことは予め言っておいてほしいな!
でも、タダで装備品をゲットできるのはありがたいかな。
「じゃあとりあえず、俺の役目はここまでだ。とっとと狗神を探して来い。」
「あ……うん。ありがとうな、おっさん。」
「おう。あ、そうだ。ついでにこれを持っていきな!」
「うわっと! なんじゃこれ。袋?」
なんかぽむぽむしてますが。
入ってるのはなんだろう?粉?
「ま、懐にでもしまっとけ。いつか役に立つさ。」
「わかった。」
地味だけど、いいおっさんじゃないか。
さて! 今から狗神のところに……って。
そういやどこにいるんだろう。狗神って。
「そういえば狗神ってどこにいるんだ?」
「知らん。」
そんなキッパリ言われても。