第1部 新米ハンターの冒険録

いやいや、まさかこんな地味……、失礼、目立たないおっさんが協会の人間とはなぁ。
人は地味か派手か……、失礼、見た目では判断できないんだな。

第06話『古代の遺産』

「確か狗神と契約するんだったな。」
「ああ、なんだかよくわかんないけど。そういうこと。」
「狗神ねぇ……?」

なんなんだ。
その嫌味なニヤリ顔は!

「おめぇ、狗神のこと……どこまで知ってる?」
「え……あ、ああ。えーと。」


そういえば全然知らない。

「守りを司ってる式神……ってことくらいかな。」

受付の彼……いや、アポロンさんだっけ?
あの人から聞いたことだけどね。

「ああ、そうだ。」

……。

…………。

え、終わり!?

「そ、それだけ?」
「ああ。俺もそれ以上は知らねぇから。」

親父ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。

「さて……式神とやりあうってのにその貧弱な装備ではなぁ。」
「仕方ないだろ。俺、まだ新米ハンターだよ?」
「やれやれ……新米が式神と契約なんて、命知らずだな。やめときゃいいのに。」

あ、おっさんは卵のこと知らないのか。
アポロンさん、一応秘密にしてくれてたんだ。
ちょっと見直した……かも。

「ま、あいつからの頼みだから仕方ないわな。それに……。」
「それに?」
『貧弱な若造をなんとか並程度にしてやってくださいね』と言われたら、やるしかないだろ。」

さっきの言葉、撤回。


「んじゃあなあ、とりあえずお前さんでも扱えそうな装備をチョイスするかな。」

おっさんは地味なショーケースから、 小さい銃のようなものと軽そうな鎧をだしてきた。

「とりあえずこれくらいだろ。」

そう言って渡してくる。
……って、見た目どおり軽いなこの鎧。
おっさん、いくら俺が新米で何も知らないからと言って、てきとーにやってないか?

「これくらいなら確かに俺でも扱えそうだけどさ。」
「なんだ、不満そうだな。あんまり重い鎧はまだ扱えないだろうよ。」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……。」

ちょっと着てみたかったな。
かっこいい鎧とか。

「その銃も鎧も、一般人も持ってるようなもんとは違うんだからな。」
「どう違うってんだ?」
「……よほど、勉強不足なんだな。おめぇ。」

だから新米なんだって!
勉強が嫌いな新米なんだってば!

「いいか? ハンターが使う装備には魔力が付加されてるものがほとんどだ。」
「魔力ね。」
「ああ。古代のルーンマスター達が様々な能力を付加(エンチャント)させた特別な装備品だ。」 「へ、へえ……そうなんだ。」
エンチャントメント、つまりルーンマスターによる魔力封入の技術は、強大な魔力を必要とするから、今ではその技術を伝えるものは極わずかだ。簡単に言えば、新品装備なんてほとんどないってことだがな。」
「だからリサイクルショップなわけか?」
「ま、そういうこった。かつて魔器の多くを協会が所持していた時代があってな、その頃登録したハンター達に魔器を配布していったんだそうだ。」
「それで今は世界中に散らばってるってわけね。しかし、太っ腹なことすんなぁ。」


そんな事情があったとは。
ハンターは、古代のルーンマスター達が生み出した装備品を、リサイクルして使っているわけか。

「だからその銃と鎧も一般のモノより格段上だ。無論、おめぇが今装備してるもんよりもな。」
「そこは余計だってのー。」
「秘められた能力はそれなりに実力のあるハンターならば自由に操れる。しかしおめぇのような新米では、いつ能力が発揮されるかは、まさしく運しだい……かな。」

なんだ、意外と不便だな。
いつでも炎をだせたり、召喚術が使えたりーとか想像してたのに!
はやく腕を上げろってのか?

「中には“七つもの能力を秘めた伝説の羽衣”があるとも聞いたことがあるがなぁ。噂にすぎんだろ。」
「そんなのが扱えたら凄いだろうな、きっと。」
「よし!とりあえずおめぇの装備はコレで決定だ。代金だが……。」

しまった!
金なんか無いぞ!?
さっき自販機の下に落ちてた100Gくらいなら……。

「いらねぇからな。」
「……は?」
「なんだかしらんが、協会の支援ってことらしいじゃねぇか。タダで持っていけ。」
「え、あ……そう。あ、ありがと。」

そういうことは予め言っておいてほしいな!
でも、タダで装備品をゲットできるのはありがたいかな。

「じゃあとりあえず、俺の役目はここまでだ。とっとと狗神を探して来い。」
「あ……うん。ありがとうな、おっさん。」
「おう。あ、そうだ。ついでにこれを持っていきな!」

「うわっと! なんじゃこれ。袋?」

なんかぽむぽむしてますが。
入ってるのはなんだろう?粉?

「ま、懐にでもしまっとけ。いつか役に立つさ。」
「わかった。」

地味だけど、いいおっさんじゃないか。
さて! 今から狗神のところに……って。
そういやどこにいるんだろう。狗神って。

「そういえば狗神ってどこにいるんだ?」
「知らん。」

そんなキッパリ言われても。

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