第1部 新米ハンターの冒険録

突如現れた巫女装束の女性。
彼女とその下僕ことARMS達の活躍により、 大泥棒・左之助を捕まえた俺たちは、身柄の引渡しのためにヴェーニスへと戻った。

第23話『潜入任務、遂行完了』

アクアス王国 ヴェーニスの町 ────

「ねー、、離してくれないかなぁ??」
「誰が『はい、そうですか。』って離すのよ。この馬鹿。」
「な!! 今、俺サマのこと馬鹿って言った??」
「言った。」

「ウッガー★」

さっきから、こんなコントみたいな会話がずっと続いている。
ヴェーニスに入ってからも、左之助の身柄はARMSによってガッチリ拘束されており、 奴の唯一の攻撃手段である盗賊王の篭手も、腐巫女さんによって没収されている。
まあ、もし没収されていなくても、乱舞さんがいる限り、発動しても効果は無効化されるけど。

「いやー、賑やかでいいですね。」
「は、はあ。そ、そうですね。」

その乱舞さんもこの調子である。
最初のほうは、腐巫女さんに説教かまされてちょっと凹んでたみたいだが。

「あら、引渡し相手が来たみたいねぇ。」
「う……うん??」

ヴェーニスで一番大きい噴水の前。
そこが身柄を引き渡す約束の場所だった。
この噴水、それにしてもでっかいな。
……そこには、漆黒のマントを羽織った男の人が一人立っていた。
すらっとした体型で、温厚な人柄がその顔からにじみ出ている感じだ。
乱舞さんがまっさきに男の許へ近づき、一礼する。
そしてなにやら耳打ちしはじめた。

「あ、、あれー??」

左之助が男の顔を見て、とぼけたような事を口走る。
どうやら知っているらしい。

「もしかして、、アイツってふれ……がふっ!!!」

後頭部を押さえつつ、涙目になりながら左之助が振り返ると、 そこには腐巫女さんが満面の笑みを浮かべて立っていた。

右手に巨大なハリセンを持って。

「まあ、あんたは黙っときなさいって事よ。」
「何? 何? そのハリセン。ハンター協会の回し者は、みんな所持してるのかい、、」

左之助の質問は無視して、腐巫女さんは男の方へと歩いていった。
その隙に逃げようと試みた大泥棒は、御付のARMSにひと睨みされてあきらめたようだ。
マントの男と乱舞さんが、腐巫女さんの方を振り返る。

「あんたの部下が情けないから、助けてやったわよ。」
「ああ、助かったよ。また何かあったら頼む。」
「んー? こっちはあんた達と違って、極秘任務で忙しいのよ! 今回は例外よ、例外!」
「あははは、相変わらず言ってくれるじゃないか。」

凄げぇ。
あそこまで言われて笑っていられるなんて……。
あの人、人間として凄い。

「しかし、今回は君がいてくれて助かった。……さて。」

男がこっちを向いた。
えーと、やっぱり俺?

「シュウ君、だったね。」
「あ、ああ、そうですけど。」

突然そういわれても返答に困る。

「……? ああ、自己紹介をしていなかったね。」

い、いや。
別にそういうことでは……。

「私の名はライス・バーグだ。初めまして、だね。」
「あ、これはご丁寧に……。」

っておい。
待て待て。今なんて言った?

ライス・バーグ!?
もしかして、フレイム支部の支部長の、あのバーグ卿か!?

「そう。私はハンター協会のフレイム支部支部長だ。」
「な……。」

もう言葉がでなかった。
まさかこんなに早く、そんなお偉いさんと会うとは思ってなかったし。
というか、この町に初めて入った時、思い描いていたバーグ卿のイメージとかけ離れすぎだって!

「今回は君のおかげで、協会が追っていた盗賊を捕らえることができた。感謝するよ。」
「い、いや。俺は何も……。むしろ、俺は荷物を取り返してもらったわけですし。」
「まあまあ、そう言わずに。お礼といってはなんだが、コレを渡しておこう。」

と、差し出されたのは一枚の紙切れ。
何だこれ。
んー……?

『試練の場 入場許可証』
本状所有者の身柄証明者:ハンター協会フレイム支部 支部長ライス・バーグ

こ、……これは!?

「水竜神団が管理する『試練の場』……。君、そこに用があるんだって聞いたからね。」
「あ、ありがとうございます!!」

やった!
これで、ようやく狗神と契約できるぞ!

「試練の場は、王都にある水竜神団の総本山・王宮神殿にあるそうです。依頼を果たすため首都へと向かうと良いでしょう。良い旅を……汝に神のご加護がありますように……。」
「はい!助かりました! じゃ、俺すぐに行かせてもらいます! 乱舞さん、腐巫女さん、バーグさん。皆さん本当にありがとうございました!」

そう礼を述べて、俺はその場から走った。
もう卵を盗まれたりなんかしないぞ!

一刻も早くサンドランドへ届けなくては!


「……行ったな。」
「ええ。純粋な少年です。」

ARMSに拘束されている左之助は、すっかりくつろぎモードになっている。

「ふーん……狗神と契約、ね。アイツ、、、、面白そうじゃん。」
「君もそう思いますか?」

微笑みを浮かべながら、乱舞が左之助にたずねる。
もちろん、シュウのことを指しているのだろう。

「何でもいいけど、アンタもいい加減そのカッコやめたら?」

呆れた口調で腐巫女が言った。
バーグでも、左之助でもなく、乱舞がこの言葉に反応した。

「そう……ですね。彼がいなくなった以上、この格好をしている意味はありませんから。」

「魔力解除!」
乱舞が言霊を唱えると、姿はまるっきり変わっていた。
ベルトのバックルと眼鏡だけは変化していなかったが、冒険者服から協会の制服に変わった。

ニャバンベルトの効果も、長時間続けるとさすがに体力を浪費しますねー。」
「よくやるわね、あんたも。」

バーグ卿はそんなやりとりを眺めながら笑った。
そして。

「潜入任務ご苦労だったな。アポロン。」
「いえ、私など足手纏いになっただけですから……。バーグ卿が腐巫女に協力を要請していなければ、大変なことになりました。」
「だが卵が奪われた事をいち早く報告したのはお前だ。謙遜しなくてもいいさ。」

アポロンはバーグと握手を交わした。
フレイム支部の主従二人の様子に腐巫女は目を細めていた。

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