「……やれやれ、さっそくか。」
男は苦笑しながら言った。
「その件に関しては、任せる。何としても卵を回収しなくては。」
「はい、お任せを。……では、失礼します。」
部下が部屋から出て行った後、バーグ卿は一人、呟いた。
「念のため……彼女にも動いてもらおうか。」
アクアス王国 盗賊のアジト ────
「おっ、これは綺麗な宝玉じゃないかー☆」
盗賊は神秘的な緑に輝く宝玉を眺めた。
魔界の宝玉は、暗いアジトではより一層輝いているように見える。
宝玉を机に置いて次に奇妙な形の卵を手に取る。
「ふーん? なんだこれ、変な形ー。これがお宝ぁー?? まあ……でも、この盗賊王の篭手がそう判断したんだし、間違いない、かな?」
盗賊はニヤリと笑い、卵を金庫にしまった。
アクアス王国 ヴェーニスの町 ────
「申し訳ありません! お待たせしてしまいました!」
「いえ、そんな……それで、どうでしたか?」
乱舞さんは、一枚の書類を取り出した。
それはなにやら地図のようなものらしい。
この×印は……。
「協会からは私が加勢するようにと指示を受けました。そして、これが近辺の地図です。このヴェーニスから北西にある×印……これが盗賊のアジトです。」
「ここに、卵が……。」
「ええ。そこにあるはずです。ご案内いたしましょう。私について来てください。」
よーし、何としても取り返しに行くぞ。
こんなところで諦められるか!
少し町から外れたところにある山道を登っているとき、
俺はずっと不思議に思っていた事を乱舞さんに聞くことにした。
「ところで、よかったんですか?」
「何がです?」
いや、何がですって……。
「乱舞さんにも依頼があったんじゃないんですか?」
「あ、え? い、いや……無かったからこそ街をうろついてたんですよ。」
「そうなんですか。ですが、こんな面倒事に巻き込んでしまって……。」
「そんなことないですよ。」
眼鏡の奥の目は、真剣だった。
どうしてだ?
何故こんなに俺に協力してくれるんだ?
「私にとっても利益のあることなんです。」
「え? そうなんですか?」
「ええ。貴方の依頼は……ね。」
さっぱりわからん。
乱舞さんがサンドランドの出身、とでも言うのならわかるけど。
彼はアクアス所属のハンターだしなぁ。
「まあ、そのうち分かりますよ。貴方にも。……さあ、そろそろアジトですね。」
足場の悪い山道を登り始めて三十分程。
そこまで町から離れているわけでもないようだ。
隠れやすく、また盗みに行くときには便利ってことなのだろうか。
「ここがアジト……ですか?」
「ええ、そのようです。」
ただの洞窟、かと思った。
中は暗い。
こんなところに潜んでいるのか。
「さて、泥棒猫を捕まえに行きましょうか。」