やっかいだな……。
相手は有名な大泥棒。さっきの戦いでもあの素早い動きには苦労させられたのに。
逃げられたら、追いつけないじゃないか!
すぐに俺達は洞窟……いや、左之助のアジトを出た。
広がるのは先ほど上ってきた山道。
遠くの方で、左之助がこちらを見て笑っている。
くそっ!!
「あっははー☆ 君達じゃ当然、俺には追いつけないだろう♪」
「悔しいですが……我々では左之助には追いつけません。」
「乱舞さん! でも!!」
このまま卵を諦められるか!
俺は、何のためにここまで来たんだよ!
「先ほど奴を逃がしてしまった事が、我々の最大の失策でした。残念ですが、もう貴方の依頼物を取り返すことはできないでしょう。協会の指示を仰ぎましょう。」
「そんな……そんな簡単に割り切れるものじゃないんです!」
追いつけないから、諦める?
そんなに軽いもんじゃない!
依頼主が……俺を待っててくれてる人達が大勢いるんだ!
「追いつけないなら、追いつくまで追い続けます!」
「ま、待ちなさい! シュウ君! 深追いは危険です!」
俺は乱舞さんの静止を振り切って、飛び出した。
俺は俺のやりたいようにやる。
そう決めたから。
……左之助が突撃してくる俺に気がついた。
「ほほーう。俺と追いかけっこするのを御所望かな?? でも、、」
左之助が軽やかに走り出す。
早い。
「俺に追いつけるわけ、、ないじゃん?」
「くそっ……!!」
やっぱり、無理だったのか?
最初から分かっていたことだった。
だけど。
「やっぱり、ここで諦めることはできない!」
「うおっ!? やるじゃーん☆ ……でも、、悪いけど俺、、本気で走るねー??」
また、スピードが上がった!?
今度こそ無理なのか、と諦めかけた瞬間だった。
「あんた、さっき言ったわよね?」
「!? ……あ、き、君は……!」
後ろで誰かが乱舞さんに話しかけている。
だけど、俺には振り返る余裕などない。
「『さっき左之助を逃がした事が、自分達の最大の失敗だ』って。」
「……。」
「でもさ、それって違うのよ?」
俺の遥か前方で、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら走っていた左之助が、急にその足を止めた。
一体、何があったって言うんだ?
よく見てみれば左之助の前に、何かがいる。
「な、なんだ、、コイツらは?? ま、まさか……ARMS!?」
「ARMS……?」
どこかで、聞いた事があるような名前だ。
「左之助を逃がすという大失敗をしておきながら……、」
左之助が足を止めて、ようやく俺は振り返ることができた。
そこには乱舞さんと、巫女装束の女性が一人。
「失敗を挽回しようと、左之助を追おうともしない。」
巫女は乱舞さんに人差し指を突きつけた。
か、かっこいい。
一方で左之助は、何かとずっと睨みあっている。
おっと、アイツを捕まえにいかなくちゃ!
「あんたはここに立って、後悔するばかり。最初から諦めてるだけ。」
左之助の行く手を塞ぐのは、三体の異形のモノ達だった。
「それが、あんたの最大の」
左之助を取り囲むように、正面には巨大な体の魔獣が立ち、
強固な甲冑を着込んだ騎士が右斜め後方を陣取り、
かわいらしい兎が左斜め後ろにいた。
「く、、、馬鹿な! こいつらは、、間違いなくARMS!」
これは逃げられそうに無い。
いくら、左之助と言えども。
「失敗だよ。」
「……腐巫女、一体君は何故ここに?」
「相変わらずね。あんたは。……ま、そんなことはどーでもいいわ。」
腐巫女と呼ばれた女性はこちらを向いた。
ARMS達がそれに反応する。
「左之助! いくらあんたでも逃げれないわよ? こいつらは私の下僕。煙幕なんか効かないからね。」
「む、、、むむむむ、、、、そんなのは、やってみないと……!」
左之助が、例によって篭手を発動させる。
「奥義解放! ……奥義、【ピック】!」
「そうくると思ったわ。往生際が悪いわね! 【ナイト】!」
魔獣と光の波動の間に、甲冑を着込んだARMSが立ちふさがる。
その巨大な盾で、ピックの波動が消え去ってしまった。
「チッ、、やはり、無駄だったか。ならば……!」
さすが大泥棒、甲冑が魔獣をガードした隙にできた一瞬をのがさずに動く。
しかし。
「逃げようってのね。馬鹿。読みやすいのよ、あんた。【ホワイトラビッツ】!」
巫女さんの号令に反応し、逃げ出そうとした左之助の行く手を塞ぐように、兎が回りこむ。
「ぬおおおおっ!?」
「このARMS包囲網から逃げられるとでも思ったのかしら? 馬鹿な子だねぇ。」