第1部 新米ハンターの冒険録

この少年が、依頼を受けたハンター。
「今は、まだ」と答えたという事は……。
やはり、ハンターとしての道を絶つつもりなのか。
それも仕方が無いじゃろう。
この依頼を受けるという事は、その命を捨てるようなものなのだから。

第15話『俺の進む道』

依頼主、四楓院夜一は俺にサンドランドの現状を話した。

長年砂漠を守ってきたオアシスの水が枯渇したという事。
その直後から砂漠の魔物達が村々を襲撃し始めたという事。
国王は保身の為、部下もろとも国を捨てたという事。
軍は事実上崩壊し、今は彼女と志願者だけで魔物から砂漠を守っているという事。
しかし、それにも限界がきつつあるという事。

『儂らも国を守るのに必死じゃ。じゃが、つい先ほども異世界に住まう魔物が侵入してきた。』
「…………。」
『ハンター協会の者の助けもあって、何とか退けることができたが……。』
「オアシスが枯れたせいなのか?」
『そうじゃろうな。確証はないが、オアシスが枯れてから時間が経つにつれて、次々と強い魔物が現れるようになった。』

オアシス一つが枯れるだけで、国一つが崩壊したなんて今でも信じられない。
だが実際に砂漠の大国は壊滅。
王政は途絶えて、国は乱れている。

たった一人の戦士とそれに従う民衆によって、何とか治安が保たれているような状態なのだ。
その戦士は、水面の奥で俺を少しの間じっと見ていた。
そして。

『御主……ハンターとして生きる事に迷いを持っていないか?』
「……俺が迷いを?」

何だ何だ。
何でもわかるのかこの人。

「実は今、このままハンターを続けようか迷ってる。何故それを……?」
『やはり、そうか。先ほど御主は「今はまだハンターだ」と言ったではないか。』
「ああ……そうか、そう言ったっけ。」

たったその一言で、俺の心の中がわかっちゃったってことか。
鋭い人だな……。

『御主にとって人生がかかっているのじゃから、むりはない。そういう事ならば、儂の依頼のために御主の進むべき道を強制するわけにはいかん。依頼はこちらからキャンセルしておく。』
「だけど、それでは……。」
『御主が気にする必要はないぞ。卵を協会に引き渡してもらえば、ここまで届けてくれる別のハンターを待つまで。御主にはきちんと報酬を用意しておくから、今後のために使うがいい。もともと、こうなる事は覚悟の上じゃ。』
「……でも、依頼を別のハンターがいつ受けるかわからないんじゃ……?」

そういうと、依頼主は笑っていた。

『儂とて“瞬神”と呼ばれた軍人! それまでの間くらいこちらで何とかする。新米ハンターに心配される必要はない! 御主の道は、御主が決めよ!』

けど、その笑顔はどこか硬かった。
確かに卵を協会に引き渡せば、俺の人生は変わる。
ハンターじゃなくて、別の道を目指す事だって。
……そしたら、砂漠はどうなる?
彼女が倒れれば、きっとあの国は完全に滅びるに違いない。
それにあの様子。
たった一人で大国の民衆全員の命を背負うのも、もう、限界がきてる。


考えろ。よく、考えろ。
このままでいいのか。
俺は、どうしたいんだ。

俺は、どうしてハンターになったんだ?
俺は、これからどんな道に進みたいんだ?

そうだ。
彼女の言うとおり。

……俺の道は自分で決める。

他人の為ではなく。
自分が進みたいと思う道を選ぶ。
たとえ、どんな困難が待っていても、俺は後悔しない。

そう。俺は……。


「俺は、貴方の依頼を受ける。」
『何じゃと? ……そ、それは本当に言っておるのか? 情けをかけるつもりならば……。』
「そういうつもりじゃない。俺は、砂漠の国を救いたい。夜一さんを助けたいんだ。見捨ててはおけないよ。俺がやりたいからこの依頼を受けるんだ。俺みたいな、新米ハンターで良ければ、だけどさ。」

『もちろんじゃ! この四楓院夜一、恩にきるぞ! そうじゃ、御主の名は……?』

「俺は、シュウ。…………“ハンター”のシュウだ。」

PAGE TOP