第1部 新米ハンターの冒険録

バーグさんのおかげで、試練の場への入場許可証を入手できたぞ!
狗神との契約。
いよいよ迫ってきたな。

第24話『水竜の鱗』

アクアス王国 王都ヴェンツィア ────

水の都と呼ばれるアクアスの王都、ヴェンツィア。
中心部には王宮や、水竜神団の総本山といったアクアスの重要な施設が並んでいる。
至る所に水路が引かれており、船で移動するという特殊な交通手段を使う街だ。
さすがアクアスの王都だな。

そしてこの水路にはもう1つ意味がある。
敵の侵入を防ぐという、大きな意味が。
アクアスの重要拠点である中心部へは、ヴェンツィア大水路と呼ばれる巨大水路を船で渡るしかない。
中心部は巨大な柵……というよりも壁のようなもので囲まれており、 内部へ入るには必ず、東西南北に設置されている検問を通過しなければならない。
万が一敵船が中心部に近づいた際は、検問に設置された大砲によって、これを撃墜するということだ。

このヴェンツィアは、四大国でも有数の難関不落の都市なんだ。
まあ、フレイム出身の俺が知っているのは知識だけだけどね。
学生のころに歴史で習ったやつ。

俺、歴史は好きだったから結構資料集とか読み漁ってたなぁ。
だから実際に目の当たりにするのは初めてだ。


「すっげー……これが、ヴェンツィア大水路か。」

その名の通り、かなりでかい。
この間のヴェーニスの大通りよりも、横幅がありそうだ。
たぶん、これ落ちたら溺れるんだろうなぁ。
深さはどのくらいだろう。

「まもなく南ターミナルより、ヴェンツィア中心部行きの水上バスが出発いたします。 ご乗船するお客様はお急ぎくださいませ。」

おっと、こうしちゃいれない。
急いで乗らなくちゃな。
この水上バスはアクアス王国が運営しており、何と、料金は無料だ。
国営はやっぱり違うねぇ。
ちなみにフレイムではこういった国営の交通機関はないが、闘技場は国が運営している。

「それでは、ヴェンツィア中心部行き、ただいま出発いたします。」

船はヴェンツィアの各地を回り、最終的には中心部へとたどり着く経路となっている。
ただし、乗り場によってルートは変わるけど。
この船は南ターミナルからの出発だから、終点は中心部南検問となっている。
南ルートは『ヴェンツィア南商店地域』『コスモバンク 南水路支店前』の二箇所で停船する。

国民にとってみれば重要な交通手段で、 他国からの旅行者からすれば最善の観光ルートを通ってくれる優れものだ。


「ご乗船、ありがとうございます。 次は『ヴェンツィア南商店地域』……『ヴェンツィア南商店地域』です。」

さすがに王都だな。
水上バスはかなり人口密度が高い。
俺と同じようにハンターっぽい人もちらほら見える。
ま、大多数はアクアス国民か旅行客だけど。

まずは最初のターミナルである『ヴェンツィア南商店地域』に到着した。
停船時間は15分間らしい。

チラッと外を除いてみると、凄い熱気が伝わってきた。
「セール」「大安売り」などの文字がこれでもか!と言わんばかりに並んでいる。
あ……あの、『激寒アイスキャンデー』。
ちょっと食べてみたいかも。

「お待たせいたしました。出発いたします。 次は『コスモバンク 南水路支店前』……『コスモバンク 南水路支店前』です。」

コスモバンクの名前を知らない人は、たぶんこの世界にはいないだろう。
長い間をかけて四大国に進出し、銀行の代名詞となった大銀行だ。
ほかにも銀行はあるが、正直世界中の人の9割以上がコスモバンクを利用している。
……いや利用していない人など、いないくらいだろう。
最近では、異業種の企業の株式にも手を出してる、とか聞いたことがある。
この間は著名な宝石業者の筆頭株主になったとか、どうとか……

まあ、難しいことはよくわからないけどね。


船は再び水路を走り出す。
その10分くらい後だろうか。
巨大な壁が目の前に迫ってきたのは。

「前方に見えますのが、かの有名な『水竜の鱗』でございます。 あの壁の向こう側がヴェンツィア中心部となります。」

『水竜の鱗』。
それが中心部を囲む壁の名前である。有名なようだけど俺は知らない。
名前の由来は、アクアス王国に伝わる式神伝説からきているらしい。

その昔、まだ王国が無かった時代、アクアス中の水が毒で汚れきったらしい。
民衆達は毒水を口にするしか生きる手段はなく、 毒で次々と人々は病に倒れていった。
しかし、その毒を浄化したとされるのが、水と癒しを司る式神『水竜ガノトトス』。
ガノトトスは今でもこのアクアスのどこかに眠っているっていう伝説だ。
水竜神団ってのは、自分達を救ったそのガノトトスを神様として尊敬している。
もちろん伝説は伝説。実在はしないんだろうけどさ。


「ご乗船、お疲れ様でした。終点、『水竜の鱗 南検問』でございます。 アクアス国民の皆様は国民証を、旅行者の皆様はパスポートを検問所でご提示下さいませ。」

およそ30分間の船旅を終えて、俺は終点の検問へとたどり着いた。
首都ヴェンツィアの中心部。
アクアス王国の核ともいえる場所だから、さすがに出入りのチェックは厳しいようだ。
だけど、この検問を越えたら王宮神殿はもうすぐだ。

「国外のお客様ですね。パスポートの提示と身分の証明をお願いいたします。」

うわっ、もう俺の番か。
慌ててハンターパスポートをポケットから取り出して、門番に提示した。

「フレイム王国、ハンターのシュウです。」
「これは……間違いなく、四大国特殊出入国許可証ですね。どうぞ、お通り下さい。」
「ありがとうございます。」

俺は門番に一礼して、水竜の鱗の内側へと足を踏み入れた。
中心部は先ほどまでと打って変わって、一切の水路は見られない。
表現がおかしくなるが、すべてちゃんと陸続きになっている。
試練の場は中心部の北西ブロック、王宮神殿の内部にある。

よし……。

待ってろよ、狗神!

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