第1部 新米ハンターの冒険録

「一体どうしました?」
「御主はここにいるといい! 儂は魔物を退けなければ!」
「だったら私も同行します! 少しくらいならお役に立てるでしょう。」

儂とバーグ卿は南へと向かった。そこには、……見た事もない魔物がいた。

第12話『禁じられた奥義の継承者』

「な、何じゃ、こいつは……!」

龍……、か!?
山のような巨体に、それを支えて空を舞うことを可能にする翼。
儂が見た中でもこれ程巨大で禍々しい魔物はおらぬ。

「こいつは……ヘルゲート!」
「ヘルゲートじゃと?」
「ええ。異世界と呼ばれる魔物の巣窟に住む上級モンスターの一種です。」

地獄の門番……か。
この砂漠の終わりが近づいておると。そういう意味か?

「よ、夜一様。奴は口から全てを破壊する光線を放ちます! 既に仲間が……!」
「わかった、気をつけよう。ともかくバーグ卿はここにおるといい!」
「あ! 夜一さん!」

儂は得意の高速移動でヘルゲートに飛び掛った。
いつもどおり、魔獣のツメを構えて……。

その瞬間じゃった。
奴は即座に儂の方を向き、巨大な尾で儂を地面に叩き付けようとした。

「くっ! 馬鹿な……。この瞬神の速さについて来れるとは……。」
「夜一さんっ、危ない!」
「!」

辛うじて奴の尾をかわしたが、休む間もなく奴は口から光線を放とうとしておった。
今度は避けようが無い。

「ここまでかっ!」

空中でそう何度も動きを変えれるはずもない。
そのとき、視界の隅であの剣を鞘から抜いているバーグ卿の姿が、ちらりと見えた。


「奥義解放!」

驚いた事にバーグ卿の足元には不思議な魔法陣が広がっておった。
それに、あのような解放呪文は聞いたことがない。
奥義……解放?

「我が結界の内で、その悪しき力を具現することあたわず……!」

しかしヘルゲートの光線は既にその体を離れ、儂を目掛けて一直線じゃった。
間に合わなかったか!

「奥義! 【聖域】!」

一瞬、大きな光のドームが見えた。
何じゃったのかはわからぬ。
じゃが。

儂は何事もなかったかのように地上に落ちた。
ヘルゲートの攻撃で消滅しているはずの、この体が。

「御主……、何をした?」
「い、……いいですから、今はとにかくヘルゲートに【麻痺】を!」
「わ、わかった。」

妙にバーグ卿が疲弊しておるのが気になった。
強力な能力を解放した反動かと思ったが、それだけではなさそうにも見える。
まるで……まるで、そう。

何かに力を奪われているような……。

儂はとにかく魔獣のツメを構えなおして、再びヘルゲートに向き直った。
奴は、自分の放った光線が消えたことに、少なからず動揺しておるようじゃ。

「魔力解放!」

儂は全力でツメをヘルゲートに突き刺した。
ルーンマスターに特殊な力をエンチャントされたこのツメは、 砂嵐にもビクともしない強靭なヘルゲートの鱗を易々と突き破る。
一瞬にして奴の体が麻痺し、悲鳴をあげることもできずヘルゲートは地上に墜落していく。
地表にぶつかる前に、儂は一足先に奴の体から大地へと飛び移った。

「夜一さん! ヘルゲートから離れてください!」
「……? わ、わかった。」

指示通りヘルゲートから離れ後方へ退避すると、バーグ卿は再びあの剣を構え直していた。
先ほどと同様に足元に奇妙な魔法陣が広がっている。
なんと禍々しい色なのだろうか。

「奥義解放!」

バーグ卿はもう一度あの言葉を発した。
そして。

「我は、天命によりて永劫の呪縛と引き換えに、終焉を司る門を開く者。」

ヘルゲートの足元にも禍々しい魔法陣が広がる。
奴は儂の【麻痺】によって動く事ができないが、目だけは確かに怯えておった。
そう、怯えておったのだ。

地獄の番人すらも、これから起こることに恐れをいだいているのだ。

「本当の地獄を見せてあげましょう。……奥義! 【滅亡の時】!」


消えた。
あの山のような巨体が。
跡形もなく消滅してしまった。
しかも儂の【麻痺】で動けないはずのヘルゲートは、 消滅する直前に、耳が壊れるかのような断末魔を残していった。

あの剣は……一体何なのじゃ?

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