「一体どうしました?」
「御主はここにいるといい! 儂は魔物を退けなければ!」
「だったら私も同行します! 少しくらいならお役に立てるでしょう。」
儂とバーグ卿は南へと向かった。そこには、……見た事もない魔物がいた。
「な、何じゃ、こいつは……!」
龍……、か!?
山のような巨体に、それを支えて空を舞うことを可能にする翼。
儂が見た中でもこれ程巨大で禍々しい魔物はおらぬ。
「こいつは……ヘルゲート!」
「ヘルゲートじゃと?」
「ええ。異世界と呼ばれる魔物の巣窟に住む上級モンスターの一種です。」
地獄の門番……か。
この砂漠の終わりが近づいておると。そういう意味か?
「よ、夜一様。奴は口から全てを破壊する光線を放ちます! 既に仲間が……!」
「わかった、気をつけよう。ともかくバーグ卿はここにおるといい!」
「あ! 夜一さん!」
儂は得意の高速移動でヘルゲートに飛び掛った。
いつもどおり、魔獣のツメを構えて……。
その瞬間じゃった。
奴は即座に儂の方を向き、巨大な尾で儂を地面に叩き付けようとした。
「くっ! 馬鹿な……。この瞬神の速さについて来れるとは……。」
「夜一さんっ、危ない!」
「!」
辛うじて奴の尾をかわしたが、休む間もなく奴は口から光線を放とうとしておった。
今度は避けようが無い。
「ここまでかっ!」
空中でそう何度も動きを変えれるはずもない。
そのとき、視界の隅であの剣を鞘から抜いているバーグ卿の姿が、ちらりと見えた。
「奥義解放!」
驚いた事にバーグ卿の足元には不思議な魔法陣が広がっておった。
それに、あのような解放呪文は聞いたことがない。
奥義……解放?
「我が結界の内で、その悪しき力を具現することあたわず……!」
しかしヘルゲートの光線は既にその体を離れ、儂を目掛けて一直線じゃった。
間に合わなかったか!
「奥義! 【聖域】!」
一瞬、大きな光のドームが見えた。
何じゃったのかはわからぬ。
じゃが。
儂は何事もなかったかのように地上に落ちた。
ヘルゲートの攻撃で消滅しているはずの、この体が。
「御主……、何をした?」
「い、……いいですから、今はとにかくヘルゲートに【麻痺】を!」
「わ、わかった。」
妙にバーグ卿が疲弊しておるのが気になった。
強力な能力を解放した反動かと思ったが、それだけではなさそうにも見える。
まるで……まるで、そう。
何かに力を奪われているような……。
儂はとにかく魔獣のツメを構えなおして、再びヘルゲートに向き直った。
奴は、自分の放った光線が消えたことに、少なからず動揺しておるようじゃ。
「魔力解放!」
儂は全力でツメをヘルゲートに突き刺した。
ルーンマスターに特殊な力をエンチャントされたこのツメは、
砂嵐にもビクともしない強靭なヘルゲートの鱗を易々と突き破る。
一瞬にして奴の体が麻痺し、悲鳴をあげることもできずヘルゲートは地上に墜落していく。
地表にぶつかる前に、儂は一足先に奴の体から大地へと飛び移った。
「夜一さん! ヘルゲートから離れてください!」
「……? わ、わかった。」
指示通りヘルゲートから離れ後方へ退避すると、バーグ卿は再びあの剣を構え直していた。
先ほどと同様に足元に奇妙な魔法陣が広がっている。
なんと禍々しい色なのだろうか。
「奥義解放!」
バーグ卿はもう一度あの言葉を発した。
そして。
「我は、天命によりて永劫の呪縛と引き換えに、終焉を司る門を開く者。」
ヘルゲートの足元にも禍々しい魔法陣が広がる。
奴は儂の【麻痺】によって動く事ができないが、目だけは確かに怯えておった。
そう、怯えておったのだ。
地獄の番人すらも、これから起こることに恐れをいだいているのだ。
「本当の地獄を見せてあげましょう。……奥義! 【滅亡の時】!」
消えた。
あの山のような巨体が。
跡形もなく消滅してしまった。
しかも儂の【麻痺】で動けないはずのヘルゲートは、
消滅する直前に、耳が壊れるかのような断末魔を残していった。
あの剣は……一体何なのじゃ?