「陛下っ! お待ちください!」
あの男は、振り向こうとさえしなかった。
自分の国を捨てて……。
自分の臣下を、民衆達をも見捨てて……。
「……大将! 貴方は砂漠を捨てられるのか……?!」
「王が戻れば、いつか国は立ち直る。」
「貴方にとっての“国”とは、いつから王の私物になったのじゃ!!」
たった一人の国王の従者は、儂を見る事はしなかった。
砂漠の大国サンドランド ────。
そう呼ばれていたこの国だったが、今はもう滅亡を迎えるのを待つだけだ。
オアシスが枯れ果てるとともに、砂漠の魔物達が国に入り込んでくるようになった。
王都は荒廃し、地方の街もその二の舞になろうとしておる。
愚かな王はすでに逃げ去った。
じゃが儂は諦めんぞ。
今までは影の存在じゃったが、此度だけは表舞台に出る必要がある。
この夜一、生まれ育ったこの国を捨てて逃げることなどできるものか。
残された民の為にも……何としてもあのオアシスを蘇らせなければ。
協会に依頼した、あの卵。
あれさえ届けば…………。
「夜一様!」
「む? どうした?」
「み、南の砂漠から……魔物の一群が!」
「わかった! すぐに行く!」
儂はこの国を守りたい。
例えこの命を失うことになっても。
王がいなくなって、最早近隣の国からは見捨てられていようとも。
儂と同じように、この砂漠を愛する者の為にも。
儂は、この国を守りたい。