第1部 新米ハンターの冒険録

「うーん、俺様のお宝の数々……うう、、癒される☆」

金庫の中を眺めていた男は、自らのアジトに何者かが足を踏み入れた事に気がついた。
惜しみながら金庫を閉めると男は、こう呟いた。

「さってと……五月蝿い虫達がやられに来たみたいだねぇー?」

第21話『超ダメージ無効化』

「気をつけてくださいね。ずいぶん、暗いですから。」

言われなくてもそうしてますってば。
だってほとんど真っ暗なんだぜ?
だけど明かりを付ければあからさまに敵襲を知らせるようなもんだしな。

「そもそも本当に、ここなんですか?」
「それは確かです。協会の情報ですからね。」

乱舞さんは、妙にハンター協会のことを妄信している気もする。
気のせい、かな。

「そんな暗いところを移動しなくてもいいじゃないか☆」
「!?」

一瞬、何が起こったか、すぐにはわからなかった。
突然の光に、しばらく目を開けることができなかったんだ。
目を開くと、光が点った洞窟の中の景色が飛び込んできた。
そして既に行動を開始している乱舞さんの姿も。

「……やはり、貴方でしたか!」
「ほえ? 君、俺のこと、、知ってるのかな?」

盗賊が篭手を填める。
げっ、またアレだ!

「乱舞さん、危ないっ!!」
「遅いっ! 奥義解放! ……奥義、【ピック】!」

「魔力解放!」


篭手は俺のときと同じように乱舞さんの前に現れた。
しかし、乱舞さんは何事も無かったかのように懐からハリセンを取り出し……、

盗賊の頭をはたいた。

「ふぎゃっ!! ……な、、なんで……だ?? なんで【ピック】が効かない?」
「やはり貴方だったのですね。これで確定です。」

ゴソゴソと懐から紙切れを取り出し、盗賊に見せ付ける。
そこには何やら難しい文章と盗賊の写真が貼られていた。

「シュウ君。さっきも話したけど、こいつは盗賊・左之助。依頼業務妨害容疑で、現在協会が追っている盗賊なんだ。」

だから俺の依頼に協力することは利益がある……ってそういう意味だったのか?

「盗賊王の篭手を持つ盗賊、左之助に間違いないな?」
「むぅ。なるほどね、、、、協会のニンゲンってわけ??」

左之助は素早い身のこなしで、再度篭手を乱舞さんに向けた。

「奥義解放! ……奥義、【ピック】!」

しかし、やはり何も起こらない。
乱舞さんは大きなため息をつくと、再び懐からハリセンを取り出し……、

今度は何の躊躇もなく左之助の顔面をはたいた。

「やれやれ、学習能力がないのですか?」
「ぎゃおっっ!! 何で効かないんだ!?」

それは俺も疑問に思った。
おかしい。
乱舞さんは特に何かをしているわけでもないのに。

「貴方は【超ダメージ無効化】というエンチャントを知っていますか?」
「な、何だソレ……俺もたくさんのエンチャントを知ってるけど、ソレは聞いたことないなぁ、、」
「そうでしょうね。何しろこれは協会が近年生み出した特殊なエンチャントなのですから。」


【超ダメージ無効化】。
名前だけでなんとなく、その効果は予測できる。

「つまり、このエンチャントが発動すればダメージを伴う魔力効果を無効化することができます。 もちろん攻撃に長けた奥義エンチャントの完全無効化などはできないでしょう。 そこまではまだ実験できていませんけどね。」
「な……な、、じゃあ俺のエンチャントは無効化されてるってわけか??」
「盗賊王の篭手程度のダメージなら、ほぼその通りです。」

何て強力なエンチャントだ!
まさしく協会が生み出した、鉄壁の力というわけか……!?
しかし、協会が生み出したということは、ルーンマスターが協会にいるってことなのか?

「問題点もありますよ? このエンチャントが付加された装備品は、他の力が付加された装備品と併用できません。強力な魔力が他の力を狂わせてしまうからです。」

なるほど、完全な鉄壁を得る代わりに攻撃手段がない、ということか。
確かに乱舞さんに装備品らしい装備品は見られない。
待てよ?
……じゃあ、あの【超ダメージ無効化】は、どこについているんだ?

「つまり……君は攻撃ができない、、そういうわけかな?」
「そう。ですが、貴方も攻撃手段を失った。そして……。」

乱舞さんが俺を指差した。
え、俺!?

「こちらにはもう一人いるんです。私は他の力は使用できませんが、彼は違う。」
「む……むぅぅぅぅ、、、」

俺が凄い牽制道具に使われているらしい。
だが、盗賊王の篭手を封じられた左之助が、圧倒的不利な位置にあるのは確かだ。

「さあ、おとなしく捕まりなさい。彼の持ち物も返すのです。」
「…………や。」
「何?」

左之助は突然、飛び上がって懐から何かを取り出した。
馬鹿な!
奴の攻撃手段は全て封じられているはずなのに、何をするつもりだ!?

「嫌なこった! わざわざ捕まってやるわけ、、ないだろ?」

目の前に広がる煙。

「煙幕だ!!」
奴は攻撃をするつもりなんて毛頭なかったんだ。
全てはこの機会を、ずっと狙っていた。

「しまった! 逃げられたか!」

煙が晴れるとそこに左之助の姿はなかった。
金庫も跡形も無く消え去っている。

「シュウ君! 急いで外へ! 奴を逃がしてはなりません!」

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