第1部 新米ハンターの冒険録

ついに姿を現した謎の黒幕。
サンドランドからオアシスの水を奪い災厄をもたらした者。

魔物の群れを撃破した者達は勝利を伝えるために、
依頼を達成させようとする者達は四楓院夜一に会うために、
そしてウリヤ族を連れた女性は行方知れずの何者かを見つけるために、

それぞれが首都ヴァルダナへと向かう。

第35話『激動のヴァルダナ』

サンドランド王国 王都ヴァルダナ 東エリア ────

「こ、これは一体どういうことじゃ!?」
「……さっきとまるで様子が違いますね。」

先ほどまで静まりかえっていたヴァルダナは今、逃げ惑う民で混乱状態にあった。
ポティーロがそれを見て驚くのも無理はない。
自警団の一部隊が、民を落ち着かせようと声を張り上げている。
建物は崩れ、民の唯一の拠り所であったこの首都も、今となっては安全と呼べる状態では無かった。

『な、何なの?このピリピリする空気……。』

首都の中心部に位置するサンドランド王宮。
雲外鏡はその屋上にある人影を発見した。
そして彼女はすぐに理解した。
ヴァルダナ中に充満する、この痛いほどの邪気を放っているモノこそ、他ならぬあの影である事を。

「あいつは……!! やはり、封印は完全じゃなかったんだ。ここで、仕留めなければ!
「む……ポ、ポティーロ殿!」

ポティーロは懐からチャルメラを取り出し、王宮に向かって走りだした。
夜一の制止などまるで聞こえていなかったように。
いや、実際聞こえてなどいなかったのかもしれない。

『あいつ……一体誰なの?』
「わからぬ。じゃが、奴がヴァルダナをこんな状態にしたのは確かじゃろう。それに、」

左腕の傷の痛みを堪えながら、彼女は魔獣の爪を装備する。

「サンドランドに災厄をもたらしたのも、奴じゃろう。ならば……放ってはおけぬ!」
「夜一様! ご、ご無事でしたか!」

夜一がポティーロの後を追って走り出そうとした瞬間、 聞きなれた部下の声が彼女の耳に飛び込んできた。

「ジョダロではないか! お前こそ無事であったか!」
「はっ、はい。私は何とか……そ、それよりも。」

ジョダロ隊長は夜一と雲外鏡に向かって頭を下げた。

「わ、我々は夜一様の留守を護りきれませんでした。も、申し訳ございません!」
「顔を上げてくれ、ジョダロ。ともかく儂に何があったか教えてくれ。」
「は……ハッ! 了解いたしました!」


サンドランド王国 ヴァルダナ王宮前 ────

「ほう。お前には見覚えがあるな。」
「覚えてくれているとは思わなかったな。嬉しいよ。」

ポティーロは屋上の男を睨みつけた。
深いフードで顔を隠してはいるが、その隙間から口元がにやついているのが見て取れる。

「貴様、やはり封印を破っていたんだな。」
「笑止。我はあの封印から一歩も出ておらぬ。」
「何?」

フードの男は屋上から空中へと歩を進める。
ふわりと、風に揺られるのではないかと思うほど、ゆっくりと地上へと降りてきた。
男が着地すると砂埃が舞う。

「我は、『影』。ただの人形にすぎぬのだ。あの結界はなかなかよく出来ている。我自身がここへ現ることは叶わなかったのだからな。……まあ、それももうすぐ終わりだが。」
「何だと? 一体どういうことだ。」
「まだ気づかぬか? 我は魔力によって生まれた影。既にあの封印を我の魔力が通り抜けるのは自由だということだ。」
「ま、まさか! 貴様……!」
「ようやく感づいたようだな。そう、あの兵士どもは既に我が手中。

男が右手でフードをはずした。
冷たい銀髪と整った顔立ち。何よりも目立つのは、そのとがった耳。

「そしてこの砂漠の大地も我が手中。奴を呼び覚ますために、この地には死んでもらう。」
「そうはさせない! 貴様の……貴様の思い通りにはさせない!」

ポティーロがチャルメラを手に取った。
笛に秘められたさらなる力を解放させようと、彼は解放言霊を唱える。

「魔力解放! ……【バイパー・エッジ】」
「!?」

奏でられた実体ある音色が砂漠の上空を舞う。


サンドランド王国 王都ヴァルダナ 西エリア ────

「ここが首都ヴァルダナ、なんだよな。」
「そのはずなんだケド、、、、これは一体何の冗談なのやら?」
『ま、簡単に言えば非常事態だよねー。』

ようやくヴァルダナへと到着した俺達の前に現れたのは、巨大な魔物に破壊される街の姿だった。
魔物の体長はおよそ 5 メートル。
あまりにも大きすぎる巨体に俺達は少し後ずさりした。

「これじゃあ依頼主の四楓院夜一って奴も生きてるかどうか、、、」
「馬鹿言うな! ……さっさとアイツを倒すぞ。」
「…………。」
『お兄さんが正しい。ぶつぶつ言ってる間に、あれにどんどん街は壊されていくよ。』
「チッ、、、★ 仕方ない。全力で行きますか。」

俺が銃を構えると、左之助は盗賊王の篭手をはめた。
狗神は冷たい目線で巨大な魔物を見据えていた。
と、その時だった。

『りりりりりりー★』
「待って! 貴方達、その子に攻撃しないで!」

遥か上空からそんな声が聞こえてきた。
俺達が唖然としながら上を見上げると、そこに空を飛ぶ一匹の生物とその背に乗る女性が一人いた。

「そ、空を飛んでる、、、? あ……ありえナイッ★
「なんだアレ……。あの暴れてるモンスターとそっくりじゃないか。」
『いやー、たまげた。ひょっとしてウリヤ族だったのかな?』
「ウリヤ族、、、って何??」

羽が生えた……なんだっけウリヤ族?
それが着地するのを見守りながら、狗神が説明を始めた。

『ウリヤ族ってのはこのサンドランドに住んでいた亜人の一種なんだけどさ。あの二本の触手から水を吸引することで自身の体を何倍にも膨らます事ができるんだ。』
「ってことは、あそこで暴れてるのも水を吸引して膨らんだウリヤ族か?
『まあ、そうだと思うよ。僕もここまでデカイのは見た事がないから気づかなかったけど。』

そうこうしているうちに、ウリヤ族と女性がこっちへと走ってきた。
女性はウリヤ族の二本の触手とそっくりなツインテールをしている。
一方女性を乗せていたウリヤ族は、いつの間にか羽がなくなり、幾分小さくなっていた。
本来の姿はどうやら80センチくらいみたいだ。
よかった、可愛らしい程度の大きさで。

「攻撃を止めてくれて、ありがとう。お礼を言うわ。」
「まあ、、、まだ何もしてなかったからなあ、、」
「私は伽耶。ウリヤ族と共に暮らす者よ。」
『うりりりー★』

ひとまず俺達は伽耶さんに簡単に自己紹介をした。
お互いの名前が分かったところで本題に……いこうとしたら。

『やっぱりあれもウリヤ族なんでしょ?』

おいおいおい。
いきなりそんなストレートな……。
だが女性は嫌な表情もせずに、逆に感心しながら答えてくれた。

「よく知ってるわね、君。」
『うりりりー♪』

小さいウリヤ族が飛び跳ねた。
か、かわいい……かも。

「この子も、そしてあそこの子もウリヤ族。本当の砂漠の民、よ。
「本当の砂漠の民……ですか。」
『ウリヤ族はずっと昔からこの砂漠に住んでいたんだ。サンドランド王朝ができるずっと昔からね。
「そう、その通り。驚いたわ。本当によく知っているのね。」

まあ、一応あいつ式神だからな。
だけど……なんでそのウリヤ族が暴れてるんだ?
まさかこのサンドランドの災いを全部一人でやった……とか?

「私達は一年ほど前からアクアス王国に移り住んでいたの。っていうのも、この子たちが魔物と間違われて襲われる事が増えたからなんだけどね。」
「ウーン、、、確かにその姿じゃ仕方ないかも??」
「だけどね。半年前にちーちゃんが……あそこにいる子なんだけどね、突然行方不明になったの。でもあの子がウロウロしてどこかへ行ってしまう事は、今までにもよくあったのよ。好奇心旺盛というか、やんちゃというか。でも必ず、すぐに自分で帰ってきたわ。」
『今回は長い間帰ってこなかったんだ。』
「そうなの。で、ウリヤ族の故郷でもあるここに来てるかもしれないと思って。半年前と言えばちょうど色々あった時期だったから、何かに巻き込まれてるかもしれないでしょ?」

確かに半年前は、オアシスの水が枯れた時期と一致している。
でも何でまた暴走してるんだろう。
もう一匹のウリヤ族……。
この子はそんなに凶暴そうには見えないしなぁ。
話を聞く限りではまだ謎は解けない。

「実を言えば、ちーちゃんがあそこで暴走している理由は私達にもわからないの。でも……。」
『うりり……。』
「この通りくーちゃんも心配してるわ。」

伽耶さんがくーちゃんを見た。
くーちゃんも少し辛そうだ。……そりゃそうだろうな。
だって、仲間が自分を見失ってあんなになってるのを見ているわけだから。

「これ以上見ているわけにもいかないわ。何としても止めなくちゃ。」
「何か出来る事があればお手伝いさせてください。」
「ウン、、、、まあ人手は多いに越した事はないだろ??」
「ありがとう、助かるわ。今ちーちゃんは我を忘れてるだけ。だからなんとかあの子を正気に戻したいの。その為にはまずあの子の体を元に戻さないといけないわ。
「攻撃すればいいんですか?」

俺の問いに伽耶さんは表情を曇らせた。
出来る限りちーちゃんを傷つけたくはないよな。
でも……俺達にはそれしかできない。

「できれば避けたい所だけど、仕方ないわ。でも巨大化している時のちーちゃんはかなり強いの。」
「うまくやらないとダメージが通らないだけじゃなくて痛い反撃をくらうカモ、、、」

左之助の言うとおりだ。
確かにあんな巨体の一撃をくらえばただじゃすまないぞ。
それに、俺達の攻撃力でちーちゃんを静めることなんでできるだろうか?
新米の俺はもちろんだが、左之助の篭手は有効な攻撃手段とはいえない。
すると狗神がぽんと、手をたたいた。
何だ何だ?
いい作戦でも思いついたのか?

『いやー、すっごい昔の時代に使われたっていう戦術を思い出したんだけどね。』
「戦術?」
『そう。古代文明時代にインナーフィーア大陸を制圧したと言われる伝説の部族が使ったらしいけど。』

あー、そういえばそんなの習ったな。
はるか昔、このインナーフィーア大陸はたった一つの部族に完全に支配されていた。
何が原因かは知らないけどその栄光は長くは続かず、フレイム・エアリア・アクアスで王朝が起こり、その支配は完全に崩壊して今に繋がる。
確か、その部族の多くがいつかを境に突然姿を消したとか、そんなんだったと思うんだけど。
理由は今でも判明していないらしい。

「そんな部族が使った戦術だろ?? もっと大人数でやるモンなんじゃないの??」
『いや、そうでもないんだ。だって何百倍の数の人間を降伏させたんだよ? 彼らは少人数一組で行動してたって言われてる。だから僕が知ってるのも 2 ~ 3 人用の戦術だけだ。』
「へえ……君、何でも知ってるのね。」

だって式神ですもの。
しかし、それが使えるのならひょっとすれば俺達にもチャンスはあるかもしれない。
一人で無理なら二人で。
二人で無理なら三人でやればいいんだ。

『だけど成功すればきっと大打撃を与えられるはずだ。』
「で、その戦術って言うのは?」

狗神は地面の砂に指で 5 つの丸を書いた。
どうやら俺達をあらわしているらしい。
5 つの丸は線で区切られ、最終的には 3 つと 2 つに分けられた。

『戦術の名は【三連段の陣】 と【挟撃陣】。チャンスは一回きり、だよ。』

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