終焉の神剣。
これまでも多くの血塗られた歴史を作り上げてきた、呪われた剣。
ヴァンダルは、これを手に入れてどこへ向かうのか……?
「……わかりました。」
「オーエン卿!?」
オーエンは、構えていた終焉の神剣を地面に置いた。
それを見たヴァンダルはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「そう、それでいい。……剣を、こっちに蹴ってくれ。」
ヴァンダルに言われたとおり、オーエンは神剣をヴァンダルの方へと蹴る。
「く……、渡すものか……!」
バーグが離れたところに落ちている剣に手を伸ばすが、
剣に手が届く寸前に鋭い一撃が加えられ、そのまま動けなくなった。
「馬鹿なこと考えちゃいけねぇな、バーグ君。」
「ヴァンダル! 私は剣を渡したはずです! 彼らには手を出さないでくれ!」
「もちろんそのつもりだぜ、オーエン卿。けどよ、この二人が危ないことをしてくるんだ。正当防衛くらいは許してくれよ?」
ヴァンダルは大剣で二人を牽制したまま、終焉の神剣を拾い上げた。
そして、倒れている二人をそのままオーエンのもとへと蹴飛ばす。
「ぐっ……!」
「さあ、二人は約束どおり返した。これでいいか?」
「バーグ君、アポロン。二人とも無事ですか?」
「申し訳ありません、オーエン卿……足手まといに、なってしまいました……。」
そう言うアポロンに笑顔を見せると、オーエンは二人を守るようにして前に立った。
その顔に、先ほどの笑顔はない。
対するヴァンダルも、それは同じことだった。
「さて。……オーエン卿、最後にもう一度だけ聞く。総長はどこだ?」
「私は答えるつもりはありません。」
「おいおい……あんた、今の状況がわかってるのか? 終焉の神剣は、俺が持ってるんだぜ? 最強と謳われたオーエン卿でも、俺には勝てない。」
「それでも、私は答えるつもりはありません。」
オーエンは返事を変えなかった。
彼の強い意志を反映するように、その言葉は重々しく響いた。
しかし、それは……。
「そうか。……じゃ、仕方ねぇな。」
ヴァンダルは持っていた大剣を床に放り投げ、終焉の神剣を構えた。
オーエンは部屋を見回し、先ほど弾き飛ばされたバーグの剣を見つけると、
これを拾ってヴァンダルに向き直る。
「あんたは嫌いじゃなかったんだけどな。……終わりにしようぜ。」
「……私は、最後まで戦うつもりです。」
「じゃ、これが最後だ。」
ヴァンダルが、大声で叫ぶ。
「奥義開放!!」
オーエンの足元に、禍々しい色の魔方陣が広がる。
終焉の神剣の最終奥義、【滅亡の時】だ。
武器をしっかりと握りながら、オーエンは後ろに倒れている二人に話しかける。
「いいですか、二人とも。私はこの【滅亡の時】で間違いなく死ぬでしょう。」
「オーエン卿!」
「いいから、聞いてください。……幸いにも、ヴァンダルは終焉の神剣の継承者にはなれない。そう。バーグ殿、貴方がすでに継承してしまったからです。だから、あいつには神剣をそう連続して使うことはできません。」
奥義系エンチャントは、継承者以外も使用することはできる。
だが、その場合奥義の威力は減少し、さらに使い手の体力を大幅に削るというリスクがある。
だからこそ継承という儀式に大きな価値が生じるのだ。
「ヴァンダルは、あの神剣を欲していた。しかし、もう神剣は本当の意味であの者の手には入らない。私がヴァンダルに飛び掛ったら、すぐにここから逃げなさい。そして、総長様と共にあいつを倒すのです。真の後継者である貴方になら、神剣は止められる。」
「オーエン卿、ですが……!」
「アポロン、バーグ殿を頼みます。」
「はっ!」
「いいですか。行きますよ……!」
オーエンはバーグの剣で瞬時にヴァンダルのもとへと斬りかかった。
まだ口を開こうとしたバーグの体を、アポロンが無理やりに引っ張って出口へと走る。
そして。
「ヴァンダル……覚悟!!」
「……【滅亡の時】!」
不気味なほど紅い光が一瞬だけ部屋を支配した。
部屋にはヴァンダル一人だけが、残されていた。
腕から流れる血を止血しながら、彼は呟く。
「腐っても“最強”の名を持っていた男か。……さて、あいつらを逃がしてくれちゃって、どうするつもりなんだろうな。まあ、いい。捕まえて総長を誘き出す材料にするとしようか。」
そう呟くとヴァンダルもまた、部屋を後にした。
主を失った支部長室に、窓から一陣の風が流れ込む。