クリスマスSpecial 聖なる夜の小さな奇跡

夜。電灯の明かりが、街を照らしている。
街の中心にある大きなクリスマスツリーの下には、たくさんの人が集まっていた。
そこへ一組の老夫婦がやってくる。

「ここがプレゼントを引き替えてくれるところですかねぇ、おじいさん。」
「そうじゃろうて。ほら、あそこで引換券を渡しているぞい。」

フレイムで牧場を営む老夫婦は、これまで贅沢もせず慎ましい生活を送ってきた。
最近はライバルの牧場のオーナーに圧力をかけられ、苦労もしている。
しかし、二人は手を取り合って昔から営んできた牧場を守っていた。

そんな夫婦のもとに、犬の着ぐるみの少年がやってきたのは今朝のことだ。

「僕と出会えたお二人は、ズバリ "運のイイ子" です。この引換券をどうぞ。」

少年が渡してくれた二枚のXmasプレゼント引換券。
夫婦はこれを、ここまで頑張ってきたことへの神様からのご褒美だと思って受け取った。

「なんだか、年甲斐もなくワクワクしてきますねぇ。」
「そうじゃのぉ。こんな気持ちになるのは何年振りじゃろうなぁ。」

老夫婦の前を歩いていたハンターらしき男性が、引換券を真っ赤な衣装を着た係の女性に渡す。
どうやらあそこがプレゼント引き換えの受付のようだ。
男性は目の前に並んでいるプレゼントの箱から、青い箱を選んでゆっくりと開いた。

「あら、いいわね~。プレゼントNo.12『舞姫の羽衣』よ。  強力なエンチャントが施されているから、きっと貴方のお仕事に役立つでしょうね。」

喜びながらガッツポーズを作る男性。
二人はそんな光景をほほえましく見つめながら、男性に続いて引換券を係に渡す。

「はーい、二枚ね。お好きな箱を二つどうぞ~。」
「それじゃあ、私はこれにしましょうかね。」
「ワシはこの箱にするとしようかの。」

二人はそれぞれ、手近なところにあった箱を選んで拾い上げる。
その中には……。


present03『笑顔のプレゼント』

「急に訪ねてきて申し訳ないね、碧燕殿。」
「ヴァロア卿、今日はどうされました?」

エアリア王国のフェニキア領。
その郊外のあるルーンマスターの一族の隠れ里に、客人がやってきていた。
そのうち二人はハンター協会のエアリア支部のドルチェ・プルート副総督と、アンリ・ヴァロア総督のコンビ。
二人そろって隠れ里にやってくるのは久しぶりだった。

「水丸くんも元気そうで何よりです。」
「僕はいつでも元気だよぉ~、プルちゃん~。」
「……その呼び名はお断りしたと思いますが。」
「かたいこと言わないでさぁ~……ふわぁ。」

【気】を司る式神・水丸はいつもこの調子だ。
いつもダラダラしており、やる気を出さない水丸には「本当に式神か?」と疑念を抱く者も多い。
ただ、契約者である碧燕との仕事上の相性は抜群なのは確かなので、見かけだけで決めつけてはいけない。

「で、どうしたのぉ?」
「うん。今日は碧燕殿に頼みがあってね。」
「大体、察しはつきますが。」

この時期にこの二人がやってくるのは、実はこれが初めてではない。
十二月のこの時期になると決まって碧燕を訪ねてくるのだ。
その理由は、いつも同じだった。

「……今年も、イイものを作ってほしい。」

小さな声で碧燕にそう頼んできたのは、二人と一緒に隠れ里にやってきた金髪の少女だった。
この少女も、碧燕や水丸とは顔見知りだ。
三人はいつも一緒にやってきては、クリスマスに向けてハンターが喜ぶプレゼントを提供するよう頼みにくる。
碧燕は世話になっている協会の役に立つならと、毎年エンチャント技術を生かして協力していた。

「わかりました。私にできる範囲のお手伝いはしましょう。」
「よ~し、今年もやるぞぉ。……でも、まずはひと眠りしてからねぇ……。」

すでにヴァロア卿がやってくると連絡を受けた碧燕は、構想を練っていた。
今年は、女性にも受けそうな羽衣タイプの防具の製作にチャレンジするつもりだ。
その為に必要な布素材も用意してあった。

「今年はどんなものを作ってくれるのか、今から楽しみだね。」
「本当に毎年ありがとうございます。」

毎年、質の高い武器や防具などを提供してくれる碧燕に、ヴァロア卿とプルートも安心した様子だ。
しかし、金髪の少女だけは少しいつもと違った。
何やら黙り込んで……いるのは、まあこの少女にとってはいつものことだが、何か思案している表情を浮かべている。

「どうされました? 何か、気になることでも?」
「……いつも、イイもの作ってくれてるけど……。」
「……けど?」
「でも……、一般人にも実用的なものがイイ。」

一同に衝撃が走った。

確かに、碧燕の提供するプレゼントはいつも高度なエンチャントが施された価値の高いものなのだが、一般人には使いこなすことができず喜ばれない。
だが、プレゼントを引き換えに来るのは多くの人が一般の人で、ハンターはごく一握りだけだった。

「確かに、私の技術ではハンター向けのものになりがちですからね……。」
「……僕としたことが、そこには目を向けていなかったな……。」
「いえ、私もです……。今年もお気に入りの "石" を提供するつもりでしたのに。」

ここに集っていた者たちの脳裏に一般人の姿は無かったようだ。
そこで水丸がいつもの暢気な声で、一同の想像力を働かせる。

「じゃあ~、みんなで考えてみようかぁ。あるところに、おじいさんとおばあさんがいましたぁ……。」
「年齢は……65歳くらいでしょうか。」
「いいね。それでいこう。」
「……仕事は牧場で動物と戯れる、でイイ……。」
「その設定はいいですね。それでいきましょう。」

どんどんと一同の想像は膨らんでいく。
彼らの脳裏に、先祖代々受け継いでいる小さな牧場を経営する一組の老夫婦が爆誕した。

「でもぉ……おじいさんとおばあさんの牧場は、近所の牧場の嫌味なオーナーに嫌がらせされるんだぁ。」
「極悪非道だね。そんなヤツは斬ってしまわなければ。
「……ヴァロア卿、グランマスターソードをここで抜かないでください。」

近隣の牧場主の執拗な嫌がらせに耐えながら、昔からのお客さんを相手に牧場業を営む老夫婦。
しかし、お客さんも少しずつ大きな牧場に取られていき、夫婦の稼ぎはみるみる減っていく……。

「つらいねぇ~……。世の中、やってらんないねぇ。」
「全くです。いくら水丸の想像とはいえ、これはヒドイ。何とかしてあげたいですね。」
「そんな二人のところに、引換券を持ってサンタさんの使いがやってくるんだぁ~。  きっと喜ぶよねぇ~。何がもらえたら嬉しいかなぁ?」

そんな老夫婦がもらってうれしいプレゼント。
一同はしばしの沈黙の後に、口を開く。

「僕、思いついたけど……これはあの人に頼まなきゃかな。」
「だよねぇ~、ここはあの人の出番だよぉ~。」
「おや、水丸。奇遇ですね。私もあの人にお願いすべきだと思います。」
「私もそう思いますわ。すぐに連絡を取りましょう。」

善は急げ。
一同はすぐに、"あの人"に連絡を取った。


クリスマスツリー前広場 ────

老夫婦が選んだ箱には、それぞれ一枚の紙が入っていた。
おばあさんの選んだ箱からは……。

「あらぁ! これは先週抽選があった年末ジャンボ・ロドしっくスじゃないですか。」
「おばあさん、凄いの引いたわね! プレゼントNo.1『大当たりくじ』よ。それ、一等の当たりくじね。」
「一等賞!? それって一体いくらなのかしらねぇ……。」

茶髪の女性は笑顔で言う。

「十億Gよ。おめでとう。」

おばあさんは、轟音を立ててその場に崩れ落ちた。
びっくりしすぎて、腰を抜かしたのである。

「おおおお、おじいさん、大変ですよ。これでお金の心配はいらないですねぇ。神様って、いるんだねぇ。」

涙ながらにそう語りかけるおばあさん。
一方のおじいさんはというと、紙を見つめたまま口をパクパクしていた。
喋れない……のではなく、驚きすぎて入れ歯が口から飛び出したようだ。

すかさずおばあさんが入れ歯を拾い、おじいさんの口めがけて投げ込む。
正確無比なコントロールで、入れ歯はおじいさんの口の中にぴったりとハマった。
おじいさん、再起動。

「びび、びっくりしたわい。ばあさんや、これを見てごらん。」

おじいさんは手にしていた紙をおばあさんに見せる。
紙を見たおばあさんは、再び轟音を立ててその場に崩れ落ちた。

「おめでとう。プレゼントNo.2『牧場拡張権利書』よ。」

老夫婦の持つ牧場の近隣にある土地を差し押さえ、夫婦の財産とすることを認める権利書だった。
これがあれば、あの嫌がらせオーナーの牧場も老夫婦の管理下に入ることになる。

「こんなのことがあるんじゃのぉ……。ありがたいのぅ……。」

老夫婦はクリスマスツリーに向き直って目を閉じる。
「ありがたや、ありがたや……」と呟きながら、二人で仲良く手を合わせた。
そんな老夫婦の様子を笑顔で見守っていた茶髪の女性は、ツリーの陰に隠れている人物にウインクする。

Ho! Ho! ……今年も、いろんな人に喜んでもらえてなによりじゃな。

ツリーの陰から人々を見守っていたのは、サンタクロースその人だった。
そんなサンタのおじいさんのもとへ、一人の子どもが走り寄ってくる。

「おじいちゃーん、これあげるー!」

子どもが差し出したのは、立派な籠手だった。
可愛らしい子どもが持つには似合わないものだが、おそらくプレゼントの中身だったのだろう。
価値がわからず子どもは籠手をぶんぶんと振り回していた。

「おや、いらなかったかい? せっかくのプレゼントなのじゃが……。」
「うーん、これよくわかんないし。でも、プレゼント開けるの楽しかったからいいの!じゃあ、あげるね!」

ぐいっと籠手をサンタに押し付け、少年は手を振りながら去っていった。
しばし、その場に立ち尽くすサンタクロース。
プレゼントの中身が喜ばれなかったのは残念だが、少年はイイ笑顔だった。

「……ま、笑顔が見れたから良いとしよう。 これも、もう一度プレゼントボックスに入れるとしようかの。