クリスマスSpecial 聖なる夜の小さな奇跡

「おめでとうございます! はい、どうぞ。」

自分と偶然出会った "運のイイ子" に、Xmasプレゼント引換券を配り続ける。
力を貸してもらったハンター協会の頼みだ。
別に、配るのはいいんだけど……。

「……はぁ、なんでこんなことに……。」

納得がいっていないのは、この格好だ。
引換券を道端で配るだけだったはずなのに、何で僕はこんな格好をさせられているのか……。
……そして、もう一つわからないことがある。
それは。

「(σ´ρ`)σィェァ!!」

わけのわかんない覆面戦士が、この仕事の相棒だということだ。


present02『メラビアンの法則』

「おや。やっと見つけたよ。」
「これは、お久しぶりです!」

サンドランドの第二の都市・コーサラ。
ポティーロは旅の中で友好を深めた、ジョダロの商店を手伝うためにこの街に滞在していた。
そんなポティーロを訪ねて、三人の人物がやってきていた。
一人はハンター協会の諜報部隊隊員、腐巫女。

「こちらこそ! 今日はどうされたんですか? それに……貴方は確か、協会の?」
「フレイム支部を任されている、ライス・バーグです。今日はポティーロさんにお願いがありまして。」

もう一人は、ハンター協会フレイム支部長のライス・バーグ。
ポティーロとは、先の戦いで少しだけ面識がある協会の幹部だ。

「お願い……ですか?」
「そうなのよ。ちょっとサンタのジイさんを手伝ってほしいの。」

最後の一人は、美しい茶髪をなびかせて真っ赤なサンタ衣装で着飾る女性だった。
ポティーロとは面識がない。

サンタのジイさん?
「ああ。総長の古い友人でしてね。十二月のこの時期に、多くの人にプレゼントを配る事業を行っているようです。」
「腐れ縁ってヤツなのかしらね。毎年、あたし達もボランティアに使われてるってわけ。」
「なるほど……慈善事業ですか。そういうことならお手伝いします。」

そういう事業なら、お世話になった夜一たちへのお礼にもなるだろうか?
そんな想いからポティーロはバーグたちの申し出を受けることにした。

「でも、なぜ僕に手伝いを?」
「アンタ、ロドス島の出身なんでしょ? あたし達の知らない良い品物を提案してくれるんじゃないかと思ってね。」
「まあお恥ずかしい話、あとは純粋に人手不足なところもあるんですよ。」

つまり、片っ端から顔見知りに声をかけているということのようだ。
一度共に戦いの場で肩を並べた程度のポティーロにまで声がかかるということは、 ハンター協会も相当このイベントに手を焼いていることは想像に難くない。

「手伝ってくれるなら助かるわ。何か珍しい品物はあるかしら?」
珍しい品物ですか……。

ポティーロはごそごそと近くの箱を漁り始める。
元はといえば、ジョダロの店に品物として卸すつもりのものを持ってきていたのだが、 「慈善事業だし、そっちに回してもいいかな」と心の中で開き直る。

「こんなのはどうでしょう?」

取り出したのは、それは見事に凍った魚だった。
バーグ卿とサンタ衣装の女性は言葉を失っているため、腐巫女が一同を代表して尋ねることにした。

「……何これ。」
「え? 知りません? マグロですよ。冷凍マグロ。」
「マグロ。」

「アンタたち、知ってる?」と腐巫女はバーグ卿と女性に問いかけるが、二人は無言で首を横に振る。
ポティーロは呆然とする三人を置いてけぼりにしながら、猛烈な勢いで解説を始めた。

「マグロは、一度泳ぎだすと死ぬまで泳ぐのをやめられない魚なんです!  なかなか美味でして、ロドスではマグロを刺身にして食べるのが庶民の楽しみなんですよ。
 マグロは泳いでよくいろんなところにぶつかって自分を傷つけてしまうんですけど、  昔、洒落のわかるルーンマスターが凍らせたマグロにエンチャントを施して……」
「わかった。……マグロが粋な代物だということだね。これはプレゼントに入れよう。」
「え、これ入れるの?」
「入れよう。」

これ以上、解説が続くのは我慢できない。
そんな一心でバーグ卿は嫌そうにしている女性に無理やり冷凍マグロを押し付ける。

「さ、マグロはいいから、他には?」
「えー……これからが楽しいところだったんですけどね……。」
「アンタ、キャラこんなんだったっけ。」
「他かぁ……。」

再びゴソゴソと箱を漁るポティーロ。
頼むから、次はまともなものでありますように。
誰かの心の声が、聞こえるようだった。

「これはどうですか?」

ああ、無情。
取り出したのは、コンクリートの塊だった。
バーグ卿とサンタ衣装の女性は再び言葉を失っているため、腐巫女が一同を代表して尋ねることにした。

「……何これ。」
「え? 見たらわかりません? コンクリートブロックですよ。」
「コンクリートブロック。」

「コイツ、大丈夫?」と腐巫女はバーグ卿と女性に無言で問いかけるが、二人はため息をついて俯いた。
ポティーロは呆然とする三人を置いてけぼりにしながら、また解説を始める。

「コンクリートって、すごいですよね。なんてったって、まずお手軽に扱えるというところがイイ!
 そしてこの硬さですよ。硬さっていうのは、すなわち攻撃力にもなりうるわけですよね。
 昔、洒落のわかるルーンマスターがコンクリートブロックを使って武器の強化を……」
「わかった。コンクリートは硬くて扱いやすいんだね。これもプレゼントに入れよう。」
「マジで?」
「マジ。もうプレゼントはこの辺りで、いいよね?」
「え、でもまだ数がそろって……」
いいよね?

これ以上、変なモノが出てきては困る。
そんな一心でバーグ卿は嫌そうにしている女性に有無を言わさぬ圧をかけた。
協会でやったら「パワハラ」と騒がれるかもしれない。

「え、もういいんですか。意外と少なかったですね。まだいろいろありますけど……。」

箱の中身を見ながら心底残念がるポティーロ。
もはや、バーグ卿はコーサラにやってきたことを後悔してすらいた。

「ええと、プレゼント以外にも作業のお手伝いもお願いできますか。」
「作業、ですか?」
「そう。アンタにはプレゼントの引換券を配る仕事を頼むわ。あたしもコイツらと配るけど。」

腐巫女の周りにはいつものARMS軍団がそろっていた。
白兎や魔獣たちも引換券を手に持ち、口にくわえて準備している。

「それくらいならお安い御用です。」
「ジイさん、引換券自分で配らないのよ。助かるわ。……でもねぇ。」
「?」

サンタ衣装の女性はポティーロをじろじろと眺める。
続いて、引換券を配る準備を進めるARMSと見比べた。

「インパクトがないのよね。あなた。」
「……ええと、それはすいません。」
「やっぱり、 "出会えてラッキー!" って思ってもらうには見た目も大事よ。  初対面の印象は出会って数秒で決まるの、知らない?  私としては、できれば可愛い恰好でもして配ってほしいところだけど……。」
「あ! 僕、箱の中にウリヤ族の衣装がありますけど!」
「それはいらないわ。」

きっぱりと断られ、ポティーロは肩を落とす。
そこへ白兎がぴょこぴょこ跳んできて、肩に乗った。
どうやら慰めてくれているようだ。

「可愛い衣装ねぇ。あたしには心当たりないけど。」
「うーん、フレイムに戻って探してみるのも一つだけど、時間がかかるな。」

「じゃあやっぱりウリヤ族の衣装を……」と、ポティーロが言いかけたその時だった。

「(σ´ρ`)σィェァ!! これ、使って。」

不審者が現れたのは。
恐らく、体型と声から察するに女性だろう。
「だろう」と推測になるのは、彼女(?)が覆面で顔を隠しているからだ。

「……ええと、誰ですか。」
「☆-(ノ´ρ`)人(´x` )ノゥヘーィ」
「いや、だからアンタだれよ。」
「(´ρ`)ォゥィェ」

ダメだ! 会話が成立しない!
誰もがこの覆面戦士との会話を諦めた。
しかし、サンタ衣装の女性は覆面戦士が手渡してきたモノに目を輝かせる。

「これ、可愛い! いいじゃない! 君、これ着て配ってよ。」


フレイム王国 国境 ────

納得はいっていない。
でも、頼まれると断れない性格のポティーロはその衣装を着ながら仕事をしていた。

「お母さん、見てー! ワンちゃんだー!」
「あらほんと。可愛いわね。」

そう、ワンちゃん。
ポティーロはなぜか犬の着ぐるみを着て、引換券を配る羽目になっていた。
さらにダンボールでできたお手製の小屋まで用意されている。

「はぁ……何でこんなことに。恥ずかしい……。」

隣ではあの謎の覆面戦士もせっせと引換券を配っている。
なぜか仕事を手伝うといってきかなかったため、バーグ卿が参加を認めたのだ。
ため息をつきながら子どもに引換券を渡すポティーロ。
そんなとき、聞き覚えのある声が耳に入った。

「あれ? ぽちさんじゃーん!」

こんな変わった呼び方をする人物は、限られる。
声の主は狗神だった。契約者のシュウも一緒だ。
このタイミングで知り合いに会うのは、最悪だった。

「お、ほんとだ。ポティーロさん、何やってんですか? ……というか、何ですか、その恰好。」
「ぽちさん、本物の犬みたいになってんじゃん。ぽちぐるみじゃん……。」
「……何も聞かないでください。僕は今、頼まれたボランティア活動をしているだけです。」

ポティーロは粛々と引換券を配るが、その目は死んだ魚のようだ。

マグロやコンクリートについて生き生きと語っていた少年と同一人物には見えない。

「ん? あの人……。」

シュウは覆面戦士に目をやる。
どこかで見覚えがあるような……

「お兄さん。ここは一肌脱ぐよ。」

……気もしたが、思い出せなかった。
狗神の言葉で思考が邪魔されてしまう。

「何をするつもりだ?」
「ぽちさん、頑張ってるんだから。一緒に引換券配る仕事やろうよ!」
「……まあ、そうだな。ポティーロさんにはお世話になったし。」
「本当ですか! それは助かります。では、これをイイことをした子に渡していってください。」

"イイ子の証" と書かれた紙の束を受け取るシュウ。
まだ200枚くらいはありそうだ。先は長い。

「ちょっと待って!」

シュウはさっそく渡す人を探しに行こうとしたが、また狗神のストップがかかった。

「今度は何だよ。」
「せっかくなんだからお兄さんもインパクトのある見た目にしようよ。」
「は?」

狗神は懐かしいお面を手渡した。
こうして見ると、オレンジ色が夕方に映える。
思い出の詰まったカボチャのお面だった。

テンションの高い覆面戦士。
犬の着ぐるみを着た少年。
カボチャのお面をかぶった謎の人物。

フレイムの国境に怪しげな三人組が現れたことはすぐ噂となって広がり、不審者対応で軍が出動したという。