ハロウィンSpecial 運否天賦の収穫祭

「……あんた達、一体何しに来たんだい。」
「誠に、わけがわからぬ連中でござるな。」

助けに来たはずの探し人にこう言われる始末。 正直、俺もわけがわかりませんよ。 何で俺たちが牢屋の中に仲間入りしてるんだろう。

「ほんと、お前たちはわけがわからないナ★」

何でこいつも牢屋の中に仲間入りしてるんだろう。


第03話『運否天賦』

フレイム王国 サンディー山脈 魔物アジト「休憩所」────

「えー、これでお婆ちゃんとゆっくり話ができるじゃん。名案でしょ?」

ロウィンさんと話すために自首したのか。
まあ、あのゴリラとオーガがいる状態でまともに話ができなかったのは確かだけど……。 先のことは置いておいて、とりあえず本来の目的を達成しなければ。

「俺たちは、お孫さんの依頼で貴方を探しに来たんです。」
「孫の……。あんた達は協会の人間かい?」
「いえ、俺たちは協会からクエストを引き受けたハンターです。」
「なるほど。ハロウ殿の依頼でござるか。」

ハロウ殿、というのは俺たちの依頼主の名前だ。 つまりはロウィンさんのお孫さんのこと。 やっぱりこの人たちが依頼にあった人たちで間違いないらしい。

「お孫さん、必死で探してるみたいだよ。お婆ちゃん、何で捕まっちゃったの?」
「はっ、、、。どうせコソ泥でもしようとしたんだろ★」
「どっかのしょうもない泥棒と一緒にしないでよ。」
「カチーン★」

漫才コンビとしては案外、この2人はいけるかもしれない。 どっちがボケ担当かはわからないけど。

「アタシは滅法賭けに強くてねぇ。この辺りじゃあ有名なんだ。」
「へぇ、、、ギャンブラーか。婆さんも見かけによらないジャン★」
「噂を聞きつけたのか、この山の魔物たちも次々に姉者に勝負を挑みに来たのでござる。」

ギャンブラーか……。
物語の中でなら聞いたことはあるけど、実際にそういうことを生業にする人に会うのは初めてかもしれないな。
運を頼りに、人生を切り拓く。
文字にしてみればカッコいいけど、実際そんなに上手くいくもんだろうか。

「で、それがそうしてここに?」
「あぁ……賭けに勝ちすぎちゃってねぇ。魔物どもめ、『イカサマしただろ!』なんて難癖をつけてきやがったのさ。」
「ははーん★ それでお縄についたってわけか??」
「まあ、そんなところさ。家にいても孫が最近口うるさいし、ここは囚人にカボチャ料理が出されるんだ。」
「うむ。姉者はカボチャが大好物でござる。」
「……まさか、それで居心地が良くて出る気がない……とか言わないですよね。」

恐る恐る見たロウィンさんの顔にはしっかりと『バレたか』と書いてある。
いや、出ろよ!
カボチャ料理は家で食えよ!

「そのうち出ようとは思ってたんだけどねぇ。まさかハロウのやつ、協会に依頼まで出してるとは……。」
「ハロウ殿は心配性でござるからなぁ。」
「事情はわかりましたけど……問題は、ここからどうやって出るかですよね。」

俺たちも牢屋に入ってしまっている以上、脱獄は難しい。 外からの手引きが無いしな。 唯一の希望だった左之助も、ちゃっかり金庫破りの犯行現場を押さえられて同居人の一人だ。

「で、お前は何してんだ?」

狗神はさっきから落ち着かない様子だ。
辺りをずっと見まわしている。

「いや。何か嗅いだことのある匂いが……。まあ、いっか。お兄さん、何か使える道具持ってないの?」
「んー……こんなことになるとは思ってなくて、とりあえず護身用にコイツしか持ってないし。」
「あー★ なんだ、、、相も変わらずその魔法銃か、、、。」

かつてリサイクルショップで親父さんにもらった銃。 威力はまあ、そんなに強くないかもしれないが、俺にとっては何度も窮地を救ってくれた代物だ。 でもこいつで牢屋を壊すのは、さすがに難しいかな。

「そういうお前はどうなんだよ?」
「俺? 今日はコソ泥モードなんで、、、いつもの籠手だけ。」

こいつ、自分でコソ泥っていってるじゃねぇか!! ……左之助の籠手も強いのは間違いないけど、物理的な破壊活動には向いてない。

「まあ、守ることしか能がない犬っころよりはマシ??」

こら、煽るな。
怒りのあまり狗神の本性が出かけている。
【護】を司る狗神の能力が脱獄には向いていないのは確かだが。

「……なんだいなんだい。助けに来たと言いながら、頼りにならない子たちだねぇ。」

いやぁ、面目ない。 メンツ的には全く脱獄に向いていないトリオだ。 左之助でなく夜一さんが一緒にいれば、また違ったんだろうけどなぁ。

「……ここは自力で脱出するしかないねぇ。」
「何か方策でもあるんですか?」
「あるに決まってるだろ? 言ったはずさ、アタシは滅法賭けに強いんだ。

そう言いながら、ロウィンさんは不敵な笑みを浮かべた。


フレイム王国  サンディー山脈 魔物のアジト宝物庫 ────

「ダークタウロス様wwww 面白い話があるんすけどwww」
「貴様はもう少し落ち着くことはできないのか。」

魔物の頭領・ダークタウロスは報告にきたゾンビ型の魔物にそう告げた。 しかし、ゾンビ型の魔物は気にする様子もなく続ける。

「今、休憩所でババア無双ッスwwww」
「……ちょっと意味がわからないが。」
「いや、だからwww わかんないかなぁwww ババアが無双してますwww」
「……いや、全然意味がわからないが。」

これ以上の問答は労力の無駄。
そう考えたダークタウロスはゾンビ型の魔物を無視して階段へと向かった。 何が起こっているのか、直接目にした方がよさそうだ。

「……そういえば、牢屋にイカサマ師がいるとか言ってたか……?」


フレイム王国 サンディー山脈 魔物アジト「休憩所」────

「な、なんなのこいつ……強すぎない?」
「やっぱりイカサマしてるとしか思えないね!」

そうは言いながら、ロウィンさんと賭け勝負をしたい魔物は後を絶たない。
魔物ってなんでこうも賭けが好きなんだろうか。

結論から言えばロウィンさんの脱獄作戦は順調だ。
牢屋の見張り番をしている魔物に声をかけて賭けに引きずり込んだかと思えば、瞬く間に完勝。
それを見ていた隣の見張り番、ゴリラ、オーガ。 賭け事の誘惑に負けた魔物たちが次々とロウィンさんに勝負を挑み、敗れていく。

賭けの内容はいたってシンプルだ。
サイコロを転がし、出た目の数が大きいほうが勝ち。

「なんなんだこの婆さん、、、こりゃ運が良いってレベルじゃないだろ??」
「はっ。天はアタシに味方してるのかね。」

運を天に任せるだけのいたってシンプルなギャンブルだが、ここまで勝ち続けると神がかっているとしか思えない。
もしくは、『イカサマ』が行われているとしか思えない。

「さーて、これで10連勝だ。他に相手はいないのかい? ここの魔物は賭けに弱いねぇ……。」

そう言いながら、ロウィンさんはにやりと笑う。 天を味方につけているのか、天才イカサマ師か。 間近で見ている俺たちにもロウィンさんの正体がどちらなのかわからなかった。

「私とも一戦頼もうか。」

そーら、作戦は順調そのもの。 賭け事と酒が大好きなこのアジトのボス・ダークタウロスの登場だ。
あとはこいつをギャンブルでボコボコにすれば、イカサマだと怒り狂って俺たちを罰しようと牢屋から出してくれるはず。 そうすれば脱獄のチャンスはやってくる。
それがロウィンさんの考えた脱獄大作戦だ。

「もちろん構わないよ。次の相手はあんたかい。」
「ああ、私が勝負をしよう。私に勝てば君たち全員を解放してやろうとも。」

えっ、マジですか。 案外話がわかるじゃないか、この半馬の魔物。

ところが、話はそう上手くはいかないもので。

「ただ、勝負相手は……そこの少年。君だ。」
「……は? 俺?」

俺だった。
いやいやいや、何で俺!?

「アタシじゃあ、勝負相手としては不満かい?」
「申し訳ない、御婦人。あなたとも一戦交えたいところだが……不正は嫌いでね。」
「姉者がイカサマをしているとでも言うつもりでござるか?」
「さあ、どうする? 私が勝負するのはその少年とだけだ。君たちが牢を出たいなら、選択肢はない。」
「フン……アタシは別に構わないよ。あんたがやんな。」

そう言いながらロウィンさんはサイコロを俺に手渡した。
本当に俺がやるのか。

「ま、、、一か八か。やるしかないだろ。」

やるしかないのか。
確かに、考えてみればサイコロ勝負は運次第だ。 そこに実力差はないわけで、ロウィンさんがやろうが俺がやろうが変わらないはず。
そう思えばダークタウロスとの勝負だって勝率は五分五分のはずだ。

「いっちょ、やるしかないよ!」
「……わかった。俺が相手をしよう。」
「ほう。良い覚悟だ、少年。では私から振らせてもらおう。」

俺は鉄格子の隙間から手を伸ばし、ダークタウロスにサイコロを渡す。
奴は迷うことなく、サイコロを小さな皿の中に投げ入れる。
出た目は、 6 だ。

……えっ。
6 !?

「オイオイ★ こりゃダメだ、、、。」
「どうやら天は私に味方をしているようだ。さあ、次は君の番だ。少年。」
「お兄さん、 6 だよ!  6 を出せば引き分けだ!」

いやまあ、そら理屈はそうだけど!
ここで 6 を引いて引き分けに持ち込むなんて、そんな展開あり得るのか。
……冷静に考えれば、確率的には 6 分の 1 。 あり得なくは、ない。けど。

「いいから投げなよ。賽は投げられたんだ。あんたもさっさと投げちまいな。」

ロウィンさんの言葉が俺の背中を押す。
賽は投げられた。
もはや前に進むしかない。

ダークタウロスからサイコロを受け取り、目を閉じてゆっくり深呼吸する。

考えても無駄だ。
乾坤一擲。
運を天に任せるんだ……!

俺は目を閉じたままで、そのままサイコロを投げた。 カランカラン、と乾いた音がする。

「……どうやら天はあんたに味方しているのかねぇ。」

まさか。
ロウィンさんの言葉を聞いて、慌てて目を開く。 皿の中で静止したサイコロの目は、間違いなく 6 だ。

「すっごーい!! 言ってみたけど、 6 が出るなんて無理だと思ってたよ!」
「やってみるもんだな★」
「ほう、大したものだ。ならば、次は私の番だな。」

ダークタウロスが再びサイコロを投げる。 5 だ。 またしても強い目が出た。
5 以上が出なければ負けが決まるが、迷いがなくなった俺はすぐに手渡されたサイコロを投げる。…… 6 だ。

「なんだなんだ、、、お前もギャンブラーの素質があるじゃナイの??」
「間違いなく。あんたの勝ちさ。」
「ちょっと、ダークタウロス様まで負けるなんてどうなってるのよ! 何で誰もこいつらに勝てないの?!」

ゴリラが騒ぎ立てる。
運、だよな……?
本当に天が俺を勝たせようとしてくれているのか。 それともただただ、本当に偶然、サイコロの引きが良かっただけなのか。

「……。」

ダークタウロスは無言でサイコロを拾い上げ、観察する。 イカサマがないかチェックしているんだろう。
しかし、不正の痕跡は見当たらないのか、そのまま黙ってサイコロを皿に投げ入れる。 6 だ。

「振れ。」

ダークタウロスがサイコロを手渡してくる。

「なんだよー! お兄さんが勝ったら解放してくれるんじゃないの!?」
「黙れ! 何か……何かがおかしい。振れ!」

圧力に気圧されるように、俺もサイコロを投げ入れた。 6 だ。

「どうなってる!? 一体何をした!?」
「いや、何もしてない……です。」
「そんなバカなことがあるか!?」
「どれどれ……」

狗神がひょいっと手を伸ばし、サイコロを手に取って皿に投げ入れる。 2 だ。
続けて左之助が同じように投げ入れてみると、 4 がでた。

「んー、 6 しかでない……なんてわけないよねぇ。」
「クソっ!」

ダークタウロスがオーガに別のサイコロを要求し、また皿に投げ入れる。 3 だ。
そして俺にそのサイコロを手渡して投げ入れるように催促してくる。 転がったサイコロは、 6 の目を出して止まった。

「言っただろ。天はあんたに味方してんのさ。何回やったって、お前では勝てないよ。ダークタウロス。」
「バカにしよって……! おい! 牢屋を開けろ! 全員切り裂いてくれる!!」
「はっ!」

何が起こっているのかは俺が一番わからないけど……。 これはチャンスだ!
少し予定は狂ったけど、これはシナリオ通り。 魔物が牢屋のカギを開錠し、扉を開いた。

その刹那、煙幕が辺りを覆った。左之助だ。

賽は投げられた。
後は、逃げるのみ。