ハロウィンSpecial 運否天賦の収穫祭

「いやー、奇遇だな、、、まさかお前たちとこんな山奥で再会するとは、、、サ★  『悪縁契り深し』って奴??」

盗賊王の籠手を持つ、大泥棒・左之助。
一度は敵として戦って、宝を奪われたこともあるし。 一度は味方として戦って、共に砂漠を魔の者から取り返したこともあるし。

本当に、この男は敵なんだか、味方なんだか。 そして何よりも。

「お前、何でそんな難しい言葉知ってんの?」


第02話『パンプーキン』

フレイム王国 サンディー山脈 魔物アジト入り口 ────

「ガーン★ 俺って、、、もしかして頭悪いと思われてる、、、???」
「うーん、少なくとも賢そうには見えないよね。」

おおう、キツい一撃だ。
それならむしろ「頭悪そう」って言ってあげた方がまだ優しさがある。

「っていうか、普通『何でここにいるんだー!?』とかサ、、、あるじゃん。聞くこと、、、」
「まあ、大方お前のことだから。宝でも探しに来てるんだろ。」
「うーん、どうせ盗賊のやることなんてそれくらいだよね。」

おおう、これまたキツい追撃だ。
今日の狗神さんは一味違うな。

「まあ、、、当たらずとも遠からずってとこかな。」
「っていうより、むしろ図星でしょ? 意地張らずに認めなよー。」

何というか、容赦がない狗神くん。
……左之助のこと、嫌いだったっけ?
もしかして、知らない間にサンドランドでお菓子食べられたとか?

「ふがーっ★ 俺のことはもういいだろ、、、それよりお前たちも中に入りたいんじゃないのか??」
「そうだけど、警備兵もいるし困ってるんだよなぁ。」
「あ、ちなみに強行突破案はすでに却下されたよ。」」
「イヤイヤイヤ、、、さすがにこの状況で強行突破って案はないだろ(笑)」

あ、また。狗神怒るぞー。
ほらほら。わかりやすい。頬をふくらませてやがる。

「じゃあ、何か良いアイデアがあるってわけ?」
「もちろん、無い★」
「なーんだ。僕たちと一緒じゃん。」

得意げな狗神だが、正直俺から言わせればどっちもどっちだ。 しかし、左之助はそういう俺の心中を察したかのようにニヤリと笑ってみせる。

「だけど、俺はこの魔物の巣窟に関する情報をたくさん持ってる。たとえば……」

左之助は地面に絵を描き始める。
描き始めたのはどうやら周辺の地形を簡略化した地図のようだ。 俺たちが隠れている高台と、鉱山の入り口(検問所)と山道の位置関係をざっと描き上げていく。
……なるほど、なかなか絵は上手い。意外な才能だ。

どうやら左之助の話では、眼下に見える検問所では入場証を提示しなければならないらしい。 それが無ければ不審者として即臨戦態勢というわけだ。

「でも結局、入場証が手に入らなきゃ戦いは避けられないんだろ?」
「そんなの僕たちに入場証なんてくれるわけないじゃん!」
「ふっふっふ、、、しかーし! 俺は見つけたのサ、、、侵入の糸口を。」
「え!?」

本当かよ……。
でも、狗神は本気でびっくりして左之助を見ている。 こいつ、こういうところは素直で可愛いんだけどな。

「ホラ、あそこ見てみー。」

そう言われて俺たちは、左之助が指さした方向へと顔を向けた。 検問所から少し離れた山道だ。 俺たちの隠れている高台から少し西へ降りたところに、ふらふらしている影が1つ。

あれは……狸か?

「おおっと、、、ただの狸じゃない。魔物だ。」
「でも、完全にあれ酔っぱらってない? 千鳥足だし。」
「んー、まあ差し詰め『できあがった狸』ってとこだナ★」
「そのまんま過ぎるネーミングだな……。」
「で、本題だけど★」

俺のツッコミには耳を貸さない左之助。

「アイツ、、、ボコボコにして入場証を奪うってのはどうだい??」

……それは、アリだな。


フレイム王国 サンディー山脈 魔物のアジト内部 ────

納得がいかない。なぜだ。
どうしてこんなことに。

「おい、お前……いい加減に笑うのやめろよ。」
「あっはははははっははははは……! ごめん、ごめんって……!」

俺と狗神はアジト内部に潜入していた。
中では酒で酔っ払った魔物たちが歌い、騒ぎ、暴れている。

「あー、お腹痛い……。こんなに笑ったのいつ振りだろ。100年……もっとかな?」
「知らんわ。笑うな。俺だって好きで被ってるわけじゃない。」

『できあがった狸(左之助談)』を山道でボコボコにした俺たちは、 まんまと入場証を奪うことには成功したんだけど。
検問所に行く寸前で左之助が余計なことをしたせいで、今俺は狗神に爆笑され続けている。

そう。あいつは言った。

「お前、、、カボチャ被れば?」

そして俺はもちろんすかさず言ったさ。
「いや、何でだよ!」、と。

「いやー、、、さすがにニンゲンがうろうろしてたらやっぱり怪しくナイ??」
「確かに。僕は中途半端に本性発揮すれば、尻尾生やして魔物っぽさ演出できるけど、お兄さんはね~。」
「いやまあ……理屈はわからんでもないけど、何でカボチャ……?」

すると奴は言った。
「ハロウィンじゃん??」と。どこからともなく取り出した謎の巨大カボチャお面を渡しながら。
確かに検問所を通るときは、怪しまれはしなかったけど。 しかも、気が付いた時には左之助はいなくなっていた。あいつ、許さん。

以降、俺を見る度に狗神は爆笑している。
すれ違う魔物たちも誰と勘違いしているのかは知らんが、気づく様子はない。

それどころか。

「よっ、パンプーキン。楽しんでる?」

と、フレンドリーに話しかけてくる。
どうやらこんな姿の魔物がこのアジトには元々いたらしい。

あー……、でも一度だけ少し正体がバレるかと肝を冷やした場面もあった。
あれは確か、ちょっと厳ついゴリラみたいな魔物と目が合ってしまった時だった。

「ちょっと、あんた達。……見慣れない顔ね。」

このゴリラ、メスなのか!?
それとも……!?
などと、およそどうでも良いことを思案しているうちにゴリラは距離を詰めてくる。

「知ってると思うけど、アタシは自警団のメンバーよ。不審な動きはしないことね。」
「いやだなぁ、お姉さん。僕たちの顔を見忘れたんですか?」

狗神はまるで旧知の仲かのようにゴリラに歩み寄った。 なるほど、「前からいたじゃないですか」アピールだ。
狗神があまりに自然に近づいていくので、最初は警戒感を隠さなかったゴリラも次第に困惑していく。 「あれ? こいつ知り合いだっけ?」と。

「ええと……ごめんなさい、あんた達とは初対面だと……。」
「ええええ!? 忘れちゃったんですか!? ひどいなぁ。」

狗神の攻勢が続く。
こいつのこういうところは、俺も見習わないとダメかなぁ。 案外、度胸があるよな。
よし、俺も……。

「そうですよ。俺たちのこと忘れたんですか?」
「いや、本当に知り合いだった……? なーんか、あんたニンゲン臭いのよねぇ……。」

しまった!
調子に乗って近づき過ぎたか!?
狗神が「余計な事するな」と、ジト目で訴えかけてくる。

「そう考えると何か、やっぱりあんた達怪しいのよねぇ……。」

ええい、もうこうなったら破れかぶれだ!
バレたらバレたで、何とかする!

「俺ですよ、パンプーキンです!!」

しばしの沈黙。
あー……これ、やっちまったか……?

「あ、やだ、ほんとだ。よく見たらパンプーキンじゃない。ごめんなさいね。」

おいおい、通じたよ。
パンプーキンってほんと誰なんだよ。

……まあ、そんなこんなで自警団ゴリラさんに正体がバレずに済んだってわけだ。
危機を脱したところで、そろそろ本来の目的を思い出さねば。

「……とにかく、真面目にロウィンさんを探すぞ。」
「あーあ……、わかってるってば。お兄……ぷっ……、パンプーキンさん……ぷっ、あははは……!!」
「お前、いい加減にしろよ!?」


フレイム王国 サンディー山脈 魔物のアジト宝物庫 ────

「んー、、、何だ。せっかく入ってみたけど、、、ロクなもんがねぇな、、、。」

シュウたちと別れてから別行動をとっていた左之助は、宝物庫にたどり着いていた。
しかし、そこにあったのはカボチャや酒、お菓子……。 とても値打ち物とは思えないガラクタばかり。

「ま、この辺でおサラバしますか★ アイツらは、、、まあ、、上手くやるだろ。」
「勝手に人の宝物庫を荒らしておいて、“おサラバ”とはいかんだろう?」

不覚。
金庫破りに集中していたとは言え、天下の大泥棒は背後に迫る影に気づくことができなかった。 左之助の背後には豪奢なマントを羽織った半馬の魔物と、ゴリラの姿の魔物が立っていた。

「おー、、、やっぱダメかねぇ??」
「無論、ダメだな。」
「ダークタウロス様。いかがなさいますか?」

ダークタウロスと呼ばれた半馬の魔物は、邪悪な笑みを浮かべた。

「ニンゲンのお客様は、祭りに疲れておられるようだ。休憩所へご案内しよう。」
「あー、、、俺そんな疲れてナイから★ 帰るわ。」
「そうおっしゃらず。ゆっくりしていかれてはどうかね?」

もちろん、左之助はゆっくりするつもりなど毛頭無い。 先手必勝とばかりにコッソリと盗賊王の籠手を手にはめる。

「じゃあ、お前たちがゆっくりしていきな★  奥義解放! …………奥義、【ピック】!

盗賊王の籠手に込められたエンチャント【ピック】は、相手の体力を奪い去る。
これでダークタウロスたちは立っていられなくなり、その場に膝をつく……。

……はずだった。

ダークタウロスは笑みを浮かべたまま左之助を眺め、手にしていた酒を一口飲む。
……どうしたことか、全く効果が無い。

「チッ★ なーんか、、、最近効かない敵が多いんだよな、、、。」
「フフフ……。そう慌てることはない。一緒に酒でも飲もうじゃないか……?」


フレイム王国 サンディー山脈 魔物のアジト「休憩所」 ────

宴会場の近くに捕らえられたロウィンさんの姿は見えなかった。 そこで、俺たちは魔物たちが「休憩所」と呼ぶ場所へ来てみたんだけど……。

「いやー、どう見てもこりゃ、牢獄だ。」
「だけど当たりだな。これはあの時見た景色と一緒だ。」

そう、雲姉さんが見せてくれた景色ではロウィンさんは牢屋に捕まっていた。 ということは、この「休憩所」がおそらく大当たりなのだろう。
しばらく歩いていくと、行き止まりの牢屋の中に人間が2人捕らえられていた。
老婆と……武士?

「ほんと、当たりだね。……貴方がロウィンお婆ちゃん?」

狗神の声に反応し、牢屋の中の老婆が顔を上げた。

「んー、誰だい? アタシのことを知ってるようだが……。」
「姉者。素性も知れぬ者たちでござる。警戒なされよ。」
「あんたは相変わらずクソ真面目だねぇ、天。」

天と呼ばれた武士のような男は眉をひそめた。 ともかく、このお婆さんが探し人のロウィンさんであることは間違いないらしい。

……と、そこに階段を下りてくる靴音がする。

「あら、パンプーキンじゃないの。」

振り返ると奴がいた。ゴリラだ。
その横の魔物……あれはオーガだな。

「さーて、お兄……パンプーキンさん。どうする?」

ニヤニヤしてんじゃねぇよ。
しかし、この状況は確かにどうしたものか。 探し人に事情を話したいところだけど、魔物に正体がバレてもややこしい。

「ン……? なあ、こいつ本当にパンプーキンかい……?」

あ、これはヤバい。
オーガさんはもしかして気づいちゃうんじゃないか?

「何言ってるのよ、オーガかあさん。どっからどう見てもパンプーキンじゃない。」
「パンプーキンにしては、カボチャの匂いがしないと思うんだよねェ……。」

え、ゴリラとオーガが親子なの?
パンプーキンってやっぱりカボチャなの?

俺の頭の中はこの場をどう切り抜けるかということと、どうでも良い疑問でパニック状態に陥る。 そんな俺を見かねたのか、狗神が意を決したように言った。

「はーい! 僕たち自首しに来ました!」

おいおいおいおい。