ハロウィンSpecial 運否天賦の収穫祭

まんまと煙幕の中で脱出に成功した俺たちは、サンディー山脈を駆け下りた。 背後からは魔物たちが追っている気配もあったのだが、別行動をとった左之助が上手くまいてくれたらしい。
ダークタウロスの怒り叫ぶ声が聞こえはしたが、ついに俺たちが捕まることはなかった。


エピローグ『天』

フレイム王国 ハンター協会 ────

「やあ、お帰り。本当にあの人をよく見つけられたね。お孫さんも喜んでたよ。」
「ま、見つけられたのは雲姉さんのおかげだけどね。」

ごもっともです。
アポロンさんから報酬を受け取り、俺たちは協会のロビーで少し休憩をとることにした。

「……しかし、ほんと何だったんだろう。あの運の良さは。」
「いやー、神がかってたよね。6しか出ないなんて。」
「まあ、サイコロなんて運次第だから、ああいうこともあるのかもしれないけど……。」

それでもあそこまで続くと、誰かの意図を感じる。 でもサイコロに不正は施されていなかったし、それは魔物たちも確認している。 ……となると、俺が本当に神がかっていただけなのか……?

「天が俺に味方した、そういうことなのかなぁ。」
「うーん。……ん? 今、お兄さん何て言った!?」
「え?」

何なんだいきなり。

「『天が俺に味方した』?」

たしかロウィンさんが、そう言ってたんだよな。 と、狗神が急に大声を上げた。

それだ!! あー、そういう意味だったのかぁ……。どうりで嗅いだことがある臭いがすると思った。」
「え? 一体どういうことだよ?」

臭い?
そういえば、牢屋の中でこいつは何かキョロキョロしてたけど。 それと俺の強運と、『天が俺に味方した』という言葉とどう関係が?
疑問だらけの俺をよそに、狗神は一人で勝手に納得していた。 そして、俺を見てこれ以上ない満面の笑みを浮かべる。

「お兄さんには内緒でーす!」


アクアス王国 盗賊のアジト ────

「はぁー、、、何か厄介ごとに巻き込まれたな、、、。」

左之助は、ロウィンを連れて逃げるシュウたちの囮となって、魔物たちから逃げ回った。 ダークタウロスは危険だったが、他の魔物の多くはハロウィンに浮かれて酒に酔い、泥酔状態。 そんな魔物たちを煙に巻くのは天下の大泥棒を自称する彼には造作もないことだ。

しかし、何の見返りもなくシュウたちを助けるような男でもない。

「ま、コイツが確保できただけでも良しとするかな★」

報酬は、ちゃっかり勝手に回収していた。
宝物庫で出会った時、魔物の頭領が身にまとっていた服である。
盗賊王の籠手による攻撃が効かなかったのは、おそらくエンチャントの効果。 そう考えた左之助は、ダークタウロスの闇のように黒い服に目をつけていた。

煙幕で牢を抜け出した後、すぐさま宝物庫へ向かってこの服を頂戴してきた、というわけだ。

「【ピック】の効果が効かなかったのはこの服のせいだと思うんだけど、、、」

服を広げてみる。酒臭い。
そういえば出会った時のダークタウロスは酒を飲んでいた。 見たところ、シミは見つからないがこぼしたのだろうか。

「うげっ★ 酒の匂いが染み込んでやがる、、、酔っ払いそうだナ。」

それとも、服自体から酒の匂いがただよってくるのか……?
ひとまずエンチャントの分析は後回しにし、近場のハンガーを手に取って服をかける。 よく見ると、どことなく気品さえ感じられるなかなか立派な服だ。
……酒臭いのだけが、もったいない。

「ハロウィンの夜に暴れる魔物の長の服……差し詰め、夜の帝王の服ってトコか★


フレイム王国 ロウィンの家 ────

「やれやれ、やっと解放されたよ……」
「いやあ、さすがのハロウ殿も余程心配したのでござろうなぁ。あそこまで姉者に怒るとは。」

無事に帰りついたロウィンは、孫・ハロウの熱烈な歓迎を受けた。 3 時間に渡る説教という、熱烈な歓迎だ。

「しかしまあ、面白い体験だったねぇ。あのガキ、良い目をしてたよ。」
「そうでござるか? 賭けの相手に指名されたときは顔面蒼白でござったが。」
「ま、それはそうだね。あれはあれで、見ものだったよ。  お前も久々に『同属』に会えて良かったじゃないか。向こうは気づいてなかったようだけど。」

天は、にっこりと笑った。
脳裏に先ほどまで共にいた二人の少年を思い浮かべる。

「元気そうで何よりでござった。童もあの少年のおかげでだいぶ感情を取り戻しているようでござる。」

もう誰も信じない。
心を許して、捨てられるのは怖い。

あの少年が、口を開けばそう話していたあの子と同一人物であるとは……。

「さーて、準備が出来次第、出かけるよ。天。」
「……またハロウ殿の目を盗んで、家を抜け出す気でござるか?」
「当たり前だろう。今日はハロウィンだ。祭りだよ? 限りある命を謳歌しないとねぇ。」
「それは拙者の台詞でござろう。」

きっとロウィンならこう言うだろうと、わかっていたのだが。 また手荷物一つ持たずに家を抜け出して、賭け事で生計を立てながら旅をする気なのだろう。

「あんたはアタシの切り札なんだ。まだまだ働いてもらうよ。」
「やれやれ、姉者とともにいると苦労が絶えぬ……。ま、飽きもせんのでござるが。」

夜更けに、二人は家を抜け出した。

賭け事の世界においては負け知らず。 どんな賭けにも常勝無敗の伝説のギャンブラー。 そんなロウィン婆さんの隣には、いつも仏頂面をした武士のような男が控えている。
その男の名は「天」。
またの名を、【運】を司る式神・帝釈天

「天」が彼女に味方する限り、伝説は終わらない。


ハロウィンSP短編 -運否天賦の収穫祭- 完